白血病の遺伝子治療薬『キムリア』

厚生労働省 薬事・食品衛生審議会の再生医療部会は 2019年2月20日、

免疫細胞を活用して若年性の白血病を治療する新製剤「キムリア」の製造・販売を了承

スイスの大手製薬会社「ノバルティス」が開発して日本法人「ノバルティスファーマ」が申請していたもので、厚労省は早ければ 2019年3月にも正式承認する見通し。

免疫チェックポイント阻害薬(オプジーボ)に続く、ガン免疫療法として期待されています。

(既に使われているアメリカでは)投与1回 5000万円以上の超高額な治療費と、高い効果が国際的に注目されています。

 

先日、競泳女子の池江璃花子(いけえ・りかこ)選手(18)が白血病と診断されて注目を集めていますが、池江選手の病気の詳細は明らかになっておらず、この新製剤の効果があるかは不明です。

 

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キムリアは、

「CAR-T細胞(キメラ抗原受容体T細胞)」を使った日本初となる人工遺伝子を導入したガン免疫療法となります。

患者から採取した免疫細胞(T細胞)を遺伝子操作して体内に戻し、ガン細胞を何度も攻撃できるように改変させます。

特定の難治性の血液ガンに対し、高い治療効果があるとされます。

(患者から細胞を取り出してから体内に戻すまで50日程度かかりますが、治療は1回の点滴で済む。)

アメリカでは2017年に実用化され、ヨーロッパでも承認されています。

治療で使うCAR−T細胞の加工はアメリカで行いますが、神戸市で実施する計画もあるとしています。

 

「B細胞性急性リンパ芽球性白血病」(25歳以下)と「びまん性大細胞型B細胞リンパ腫」のうち、再発や難治性の患者が対象となる。

利用できるのは、抗がん剤が効かなかった人などに限定しており、ピーク時で年間250人ほどと見込まれています。

なお、国内で承認されれば、CAR-T細胞を使ったガン免疫治療製剤の第1号となります。

 

臨床試験では、再発可能性や、抗がん剤が効きにくい難治性の「B細胞性急性リンパ芽球性白血病患者」(ALL)の約 8割に効果が確認されています。

同じく難治性の「びまん性大細胞型B細胞リンパ腫患者」(DLBCL)でも約 5割に治療効果が確認された。 

劇的な効果の一方、

製剤の副作用で過剰な免疫反応を起こすサイトカイン放出症候群が起き、高熱や嘔吐(おうと)などが生じる場合があるとしています。

臨床試験では白血病患者の80%弱で副作用が出ていて、一部では一過性の心不全や呼吸困難なども起き、

因果関係が否定できない死亡例(脳出血など)が、ALLで2例、DLBCLで1例出ています。

 

さらに、遺伝子操作や細胞の培養にコストがかかるため、治療費が高額になることも課題となっている。

ノバ社によると、米国では白血病に使うと47万5000ドル(約 5300万円)かかり、治療から1か月後に効果が認められた場合にだけ、患者に支払いを求める方式が導入されています。

日本ではまだ薬価は決まっていませんが、高額薬剤としても知られる「オプジーボ」よりも高くなる可能性があるとされています。

 

 

※「免疫療法」 とは

体の中に侵入した細菌やウイルスなどの異物を排除する「免疫の力」を治療に使う方法。

免疫が弱まれば、薬を投与するなどして活性化。

ガン細胞が免疫細胞にかけてしまうブレーキを外すことに着目したのが、ノーベル医学・生理学賞を受賞した京都大の本庶佑(ほんじょ・たすく)特別教授。

免疫療法はガン治療として、

手術、化学療法(抗がん剤)、放射線に次ぐ、「第4の治療」として注目を集めています。

 

 

このほかに、厚労省の専門部会は、大阪大発の創薬ベンチャー「アンジェス」が開発した足の血管が詰まる重症虚血肢の遺伝子治療製剤「コラテジェン」の製造販売も条件付きで了承しています。

これは、血管再生などの作用を持つ遺伝子を患者の体外から入れて、症状を改善させる効果があり、正式承認されれば国内初の遺伝子治療製剤となります。

 

 

「iPS細胞の脊髄損傷 治療」の臨床研究を厚生労働省が承認

厚生労働省の再生医療等評価部会は 2019年2月18日、

iPS細胞(人工多能性幹細胞)から作った神経細胞のもととなる細胞を脊髄損傷患者に移植し、機能改善を試みる慶応大学の臨床研究計画を承認しました。

近く 厚労相が実施を認める通知を出して、年内にも最初の患者に移植される予定です。

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この慶応大による臨床研究計画は、岡野栄之教授(生理学)らのチームが2018年12月に申請されたもので、

運動機能や感覚が完全に麻痺し、損傷してから2~4週間経過した患者4人(18歳以上)が移植の対象となります。

 

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この臨床研究計画の具体的な内容としては、

京都大iPS細胞研究所に備蓄するiPS細胞を神経細胞の基となる細胞に変化させて、約200万個を損傷部位に移植するというもの。

他人由来の細胞なので免疫抑制剤も投与して、リハビリと含めて1年ほど掛けて、神経の再生や機能改善などの有効性を確認するとしています。

 

iPS細胞は段階を経て成熟する細胞で、これまでは成熟しきった細胞やそれに近い段階の細胞を移植していますが、今回は未成熟な細胞を使います。

細胞は未熟過ぎると腫瘍化の恐れがあり、有効性の確認とともに安全性の確認が重要となります。

腫瘍化を防ぐため、独自に開発した薬も使うとしています。

将来的には十分な治療効果が得られるよう、1000万個まで細胞数を増やすことも検討している。

 

承認後、慶応大の岡野栄之教授は記者会見で、

「細胞治療の研究開始から20年、ようやくスタートラインに立てた。一日でも早く安全な治療を届けたい」と話しています。

 

 

なお、同じく臨床研究の申請をしていた「大阪大のiPS細胞を使った角膜再生 治療」についても議論されましたが、継続審議するとして承認は見送らています。

 

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抗がん作用が向上する「腸内細菌」11種類を特定

慶応大の本田賢也 教授(医学部微生物学 免疫学教室)らの研究チームは、 

健康な人が腸内に持っていることがある免疫細胞を活性化する11種類の腸内細菌を特定。

それを「オプジーボ」などの免疫細胞のブレーキを解除するガン治療薬(抗がん剤)と併用して投与すると、ガンの進行を抑える効果があることをマウスを使った実験で突き止めました。

研究成果は、イギリスの科学誌「ネイチャー(電子版)」で発表されています。

今後は、アメリカのベンチャー企業を通じて臨床応用を目指すとしています。

 

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腸内細菌が免疫細胞を活性化することは、これまでの研究でも分かっていましたが、免疫細胞の一種で感染症やガンを抑えるとされる「CD8T細胞」については、腸内細菌との詳しい関係が明らかにされていませんでした。

研究チームは、「培養して増やし、がん免疫療法と併せることで治療効果を高められる可能性がある」としており、臨床研究を行う計画です。

 

 

ヒトの腸内には1000種類以上の細菌が存在し、免疫などに影響を及ぼしていると考えられています。

研究チームは健康な男女6人の便を、全く細菌を持たないマウスに別々に投与して、3週間ほど観察。

ガン細胞への攻撃などを担う免疫細胞の一種「CD8T細胞」の増え方を比較。

最も多くの免疫細胞が増えていたマウスの腸から取り出した細菌から、特に免疫細胞を増やす11種類の細菌を特定しています。

ガンができ始めたマウスに特定した11種類の細菌を与えた上で、免疫細胞のブレーキを外す「免疫チェックポイント阻害剤」を投与すると、

11種類の腸内細菌を与えない場合に比べて、

ガンの増殖が2分の1から3分の1に抑えられたとしています。

さらに、特定した11種類の腸内細菌を与えるだけでも一定の増殖抑制効果を確認。

これは、投与した腸内細菌が免疫細胞を活性化させて、治療効果を高めたためと考えられます。

 

また、食中毒などの原因となる「リステリア菌」に感染したマウスでの実験でも、

症状が抑えられ、感染症の予防や治療にも利用できる可能性があります。 

11種類の細菌はヒトの腸内にもともと少なくて、検出されない人も多い。

免疫チェックポイント阻害剤と腸内細菌の関係を巡っては、多様な腸内細菌を持っているほど薬の効果が高まるとの報告もあり、国内外で研究が盛んになっています。

 

今回の成果は、ヒトにおける感染症やがんに対する予防・治療法の開発に繋がることが期待されます。

 

 

iPS細胞での「角膜移植」を阪大が治験へ

大阪大の西田幸二教授(眼科学)らの研究チームの、

「ヒトのiPS細胞(人工多能性幹細胞)から作製した角膜の細胞を移植する」臨床研究計画が、大阪大の審査委員会で(2018年12月)了承され、厚生労働省に申請。

審議を経て承認を得られれば、2019年5~6月頃には1例目の移植を実施するとしています。

(阪大でのiPS細胞を使った臨床研究では、2018年5月に心臓病治療が既に、厚労省に認められています)

 

学内での審査委員会では、

移植した細胞の安全性やガン化リスクなどを議論。

計画自体への異論などはなく、患者への説明文書を分かりやすく修正するなどの条件付きで認められています。

 

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計画では、阪大の西田幸二教授(眼科)らのチームが、

成人で「角膜上皮幹細胞疲弊症」の重症患者4人を対象に、

京都大に備蓄された他人のiPS細胞から角膜の細胞に変化させて、厚さ約 0.05mmのシート状にした後、移植手術します。

iPS細胞で懸念される腫瘍化が起きないかなど、安全性や有効性を確かめます。

移植した細胞が角膜を再生すると期待されている。

 

この「角膜上皮幹細胞疲弊症」は、

黒目の表面を覆う「角膜」(角膜とは、目の中央にある直径 約11mm、厚さ 約0.5mmの、黒目の表面を覆う透明な膜で、レンズの役割を持ちます。)を新たにつくる「幹細胞」がケガなどで失われて、視力が落ち、失明することもある病気です。

厚労省によると、角膜上皮幹細胞疲弊症の患者を含む角膜移植の希望者は、1600人ほどと言われています。 

治療には他人の角膜を移植する方法がありますが、拒絶反応の心配があります。

さらに、日本国内での提供数は希望者の半分くらいで慢性的に不足していて、海外からの輸入に頼っているのが現状で、ドナー不足の問題もあります。

このiPS細胞での角膜移植が実用化されて、不足分が補えるようになることが期待されます。

 

西田教授のコメント

「臨床研究は第一歩。一般的な治療に発展させていくことが非常に大事。この手法を安全に早く患者さんに届けたい」

「iPS細胞を使えば品質が高く、より治療効果を見込める移植用の角膜を作製できる。6年後の保険適用を目指し、計画を進めたい。」

 

iPS細胞を使った目の再生医療の臨床研究は、2014年に理化学研究所などが、

世界で初めて網膜の細胞を移植する手術を実施していますが、

角膜の疾患についての臨床研究は今回が初めてとなります。

 

病気腎移植が「先進医療」承認

厚生労働省の専門家会議は、

ガン治療で取り出した腎臓を別の腎不全患者に移植する「病気腎移植(修復腎移植)」について、「先進医療」(※保険適用外の先進技術を用いた医療)に指定することを条件付きで承認した。

 

腎臓を丸ごと摘出する提供者に不利益が生じる恐れがあるなど、安全面や倫理面での問題が指摘されていて、

厚労省「病気腎移植」を臨床研究を除いて原則禁止としていましたが、

これにより、保険診療保険外診療を併用し治療を受けることができるようになります。

 

移植手術の費用は自己負担ですが、入院や投薬などの費用の一部には健康保険が適用され、患者の負担が軽くなります。

東京西徳洲会病院が計画を申請し、宇和島徳洲会病院とともに実施します。

 

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病気腎移植(修復腎移植)とは、

腎臓がんなどの病気のため摘出した腎臓を、病巣を取り除いて修復し、

腎不全など移植を必要とする患者に移植する手術です。

移植を待ち望む患者の期待は大きい一方、ガンが再発するなどのリスクも指摘されています。

 

現在、国内では約32万人の腎臓病患者が透析治療を受けており、

日本臓器移植ネットワークによると、

その32万の腎臓病患者のうち約 12000人が腎移植を希望しているとされていますが、腎移植 待機期間は平均15年と長く、その間も多くの透析患者が亡くなってしまっているのが現状です。

同移植術への先進医療適用によって、新たに治療の選択肢が増えることは、透析患者さんにとって朗報と言えます。

 

将来的には、保険が全面的に適用される一般的な医療になる可能性もあります。

ただ、専門家からは提供者に不利益が多いと懸念する声も根強い。

 

 

会議終了後、座長の宮坂信之(東京医科歯科大名誉教授)は、

「病気腎移植に諸手を挙げて賛成ではない。ドナーの少ない日本で修復腎活用のアイデアはいいが、条件付きの賛成。評価のためのスタート地点に立ったにすぎない」と強調しています。

部会メンバーで日本泌尿器科学会の斎藤忠則(前保険委員長)も、

「多くの問題に態勢を整えたのは確かだが、評価はこれから」と指摘しています。

 

 

東京西徳洲会病院宇和島徳洲会病院の2つの病院で、4年間で計42人に移植を実施する予定。

対象は、

重症の腎不全患者で、ドナー(臓器提供者)はガンの大きさが7cm以下で、医学的に摘出が必要な患者から腎臓を取り出して、腫瘍部分を取り除いた上で、別の末期腎不全患者に移植する。

治療後は腎臓の定着率のほか、臓器提供者や移植を受けた患者でガンが発症するかどうかや、副作用の件数、生存率などを調べます。

 

レシピエントの選択基準は「透析治療中で慢性透析治療の維持が困難な腎移植希望者」とされています。

「最初の5例ほどは実施ごとに部会で妥当性を検討する」などの条件付きで実施となります。(21例目までに移植した腎臓が機能しないケースが4例になれば試験を中止)

結果が良好だった場合は、他の病院でも実施される可能性もあります。

 

レシピエントの費用総額は、347万円で(そのうち、先進技術に関わる手術代や検査代などは、141万円)

高額療養費制度も利用できます。

なお、ドナーの費用は全額保険適用されます。

 

会議では、

移植のために、ドナー(臓器提供者)のガン治療に不利益がないよう「細心の配慮」が必要とし、

移植を受ける患者の選定にも「客観性と公平性を担保する必要がある」と指摘しています。

さらに、「ドナーの適格性だけでなく、患者の選定にも関係学会が推薦する外部委員が参加すべき」との条件を付けています。 

一方で、徳洲会グループだけで実施することの是非を問う声や、これまで関連学会が反対してきた経緯から、「厳しい条件になるのはやむを得ない」との意見もありました。

 

宇和島徳洲会病院は、2011年10月に臨床研究として実施していた同移植の先進医療適用を厚労省に申請しましたが、

2012年8月に「透明性、公平性、医学的妥当性が不十分」との判断で承認がされませんでした。

2016年に内容が修正して再申請がなされ、これまで継続審議が続いていました。

ガンのリスク上昇の原因

ガンを引き起こす恐れがある遺伝子異常は年を取るとともに増加して、過度の飲酒や喫煙で促進されることが遺伝子解析で分かったと、京都大や東京大などの研究チームが発表。

飲酒歴・喫煙歴が長い人ほど、発ガンに関わる遺伝子変異が起こる頻度が高まるとしています。

 

これまでも加齢や 飲酒・喫煙などによって、ガンのリスクを高めることは統計学的な傾向では明らかになっていましたが、これによって遺伝子レベルでも裏付けられた形になります。

この研究成果は、イギリス科学誌「ネイチャー(電子版)」に掲載されます。

 

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ガンは日本人の死因のトップで、その割合は急増しています。

ガン発症者の7割を65歳以上が占めていますが、なぜ高齢者がガンになりやすいかは分かっていません。

 

チームによると、ガンは細胞の特定の遺伝子に異常が生じて、増殖することで発症します。

加齢に加え、生活習慣によってもリスクが高まるとされていますが、詳細メカニズムは不明で、発症前にどのような変異が起きているかは分かっていません。

 

京都大学の小川教授は、

「加齢とともにがんになる人がなぜ多くなり、飲酒や喫煙がそのリスクをどう高めるのかを解明する重要な手掛かりとなる成果」として、早期診断や予防につなげたいとしています。

 

研究チームは、飲酒や喫煙とガンの関連が大きいとされる「食道」に注目。

発ガンに先立って起きる遺伝子の異常を調べるため、

25~85歳の食道ガン患者や健康な人、134人の正常な食道上皮(正常な食道の組織)を採取して、それを解析。

その結果、

ガン患者・健康な人を問わず、正常な細胞であっても食道ガンで頻繁に見られる「遺伝子異常」が加齢に伴って増加し、過度の飲酒や喫煙歴があるとさらに増加する傾向にあるとしています。

飲酒や喫煙の習慣がある人は、ない人に比べて、数倍多い。ガンとの関連が深いとされる「ガン関連遺伝子」でも同様の傾向が見られています。

ただし、がん細胞で一般的にみられる遺伝子変異のパターンとは異なる部分もあったという)

こうした異常を持った細胞は、70歳以上の高齢者では飲酒や喫煙の有無にかかわらず、食道全体の面積の40~80%に拡大していることも判明。

この遺伝子異常は、生後間もない時期に生じていた場合があることも分かっています。

 

 

食道がんは、毎年 20000人以上が発症していると言われています。

早期発見が難しく、難治性のガンの一つとされています。

チームの小川誠司・京都大教授(腫瘍(しゅよう)生物学)は今回の研究成果について、

「加齢による遺伝子変異に飲酒と喫煙が加わり、発ガンリスクが一気に高まる。予防には酒やタバコを控えることが重要。」

「ガンの初期の発生を解き明かす、大きな手がかり。一方で、(正常な細胞が)ガンになるにはまだ段階があり、飲酒や喫煙をしない人はそれほど心配することはない」と説明しています。

 

子宮頸がん防ぐ化合物を開発

子宮頸ガンの発症を抑える抗ウイルス性の化合物を開発したと、京都大の萩原正敏教授(化学生物学)らのグループが発表。

子宮頸ガンの原因となるHPV(ヒトパピローマウイルス)の増殖を抑えて、感染後のガン発症を防ぐ予防薬や治療薬の候補として期待されます。

2018年度中に京大病院で子宮頸ガンの前段階にある患者を対象に臨床試験(治験)を始める予定。

3年以内での実用化を目指すとしています。

この成果は、アメリカ医学誌電子版に掲載されています。

 

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HPV(ヒトパピローマウイルスは、主に性行為によって多くの女性が一度は感染するが、稀に感染が長く続きガンの前段階を経て、子宮頸(けい)ガンになる。

子宮頸ガンは、HPV(ヒトパピローマウイルス)感染後に、子宮頸部でHPVが増えて異常な形の細胞が現れる「異形成」という段階を経て、そのうち数%の患者にガンが生じるとされています。

 

 

京都大の研究チームは、

HPVの増殖を抑える化合物を開発、これをHPVに感染させたヒトの上皮細胞に体外での実験でこの化合物を投与。

2週間後に観察した結果、増殖がほぼ止まったことが確認。

さらに、人の子宮頸ガン細胞を移植したマウスに化合物を服用させると、3週間後には増殖が3割ほど抑えられています。

投与によるマウスへの副作用は確認されていません。

人へは膣(ちつ)からの投与を予定している。

 

子宮頚ガンは、

年間 1万人ほどが罹患し、約 2900人が死亡していて、患者数・死亡者数とも近年増加傾向にあります。

特に、20歳~40歳台の若い世代での罹患が増加しています。

HPV感染予防ワクチン(子宮頸がんワクチン)の導⼊が世界で進みつつあるが、日本での普及率は0.5%を下回っています。

そのため、子宮頸がんの罹患者数は今後も増加が続くと予想されます。

また、1度 HPVに感染した⼈ではHPVワクチンによる予防効果を得られません。

京都大の萩原正敏教授(化学生物学)は、「予防薬や治療薬として子宮頸がんを根絶できる可能性がある」と話しています。

 

子宮頸ガンをめぐっては、2013年4月から小学6年~高校1年に相当する女子を対象にHPVワクチン接種が原則無料の定期接種となっていますが、接種後に身体の痺れや痛みといった副反応が報告されたとして、厚生労働省は2013年6月から積極的な接種の勧奨を中止しています。

 

「ALS」の治療抗体を開発

運動神経が徐々に消失して、全身が動かなくなる ALS(筋萎縮性側索硬化症)の原因タンパク質を細胞内から除去する抗体とその手法を開発したと、

滋賀医科大の漆谷真 教授(神経内科)らの研究チームが、

京都大学や慶応大学の研究チームとの共同研究で発表しました。

これにより、ALSの進行を止める薬の開発につながると期待できるとしています。

また、これは根治につながる治療法になる可能性もあるとしています。

この研究成果は、イギリスの科学誌「サイエンティフィック・リポーツ」に掲載されました。

 

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「ALS」は 進行性の難病で、

神経細胞が侵されて運動ニューロンが徐々に死滅していき、運動や呼吸などができなくなる難病です。

進行を遅らせる治療薬の開発は徐々に進んでいますが、未だ根治は難しいとされています。

国内の患者は、約 10000人ほど。

 

患者の神経細胞の中に、タンパク質「TDP 43」が異常な状態で蓄積することが原因の一つと考えられています。

 

滋賀医大の漆谷真 教授や玉木良高 医師らは、

ALSの多くで見つかる異常な「TDP 43」にくっ付いて分解を促す「抗体」を既に開発しています。

その抗体を細胞内で機能させるため抗体遺伝子を細胞に導入して、

細胞内でできた抗体と異常な「TDP 43」を一緒に「オートファジー(自食作用)」などで分解させる手法を考案。

ヒトの腎臓腫瘍からできた培養細胞に抗体遺伝子を導入すると、異常な「TDP 43」は減少し、細胞が死滅することも抑えられています。

 

脳に異常な「TDP 43」が蓄積されるようにしたマウス胎児の実験で、

抗体を作らせるようにすると、TDP43が減少したほか、発育にも影響がなかったとしています。

抗体が作られるようにしなかったマウスは、原因タンパク質の蓄積が進行しています。

(抗体がない培養細胞は2日間で4割が死滅しましたが、抗体の遺伝子を導入するとほぼ全てが生き残ったことが確認されています)

 

今後 研究チームは、ALSのモデル動物を作製して、ウイルスで神経細胞に抗体の遺伝子を導入する遺伝子治療の効果を確認していく予定で、

サルを用いた安全性試験も進めていき、臨床応用を目指すとしています。

 

滋賀医科大の漆谷真 教授は

「今後、動物実験などで安全性や効果を検証する必要がある。ハードルはまだあるが、ALS治療のための大きな一歩を踏み出せた」

「安全性を慎重に確認し、10年以内に臨床応用したい」と話しています。

 

iPS細胞で「頭頸部ガン」治療へ

健康なヒトのiPS細胞(人工多能性幹細胞)から免疫細胞を作り、頭や首にできる「頭頸部がん」の患者に投与する臨床試験(治験)を、理化学研究所千葉大学の研究チームが計画。

早ければ、2019年秋頃にも国に届け出るとしています。

了承が得られた段階で、投与を開始する予定。

 

これは、免疫を活性化させることでガン細胞の縮小を目指す治療法で、iPS細胞を使ったガンの治験は国内では前例がありません。

なお、公的保険の適用も見据えています。

 

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治験は医師主導で、

対象となるのは、「頭頸(とうけい)部がん」鼻・口・舌・顎・喉・耳 などにできるガンの総称)

国内では、ガン患者全体の約5%を占めるとしています。

 

この治験を計画しているのは、理研生命医科学研究センターの古関明彦副センター長と千葉大の岡本美孝教授らのチーム。

頭頸部ガンが再発して手術などでは治療効果が得られない患者3人が対象。

その後、肺がんなどにも対象を広げる予定としています。

 

計画では、

他人のiPS細胞から免疫細胞の一種である、血液中のナチュラルキラーT細胞(NKT細胞)」という免疫細胞を大量に作製し、

患者の血管から患部付近に注入する。

NKT細胞には、自らがガン細胞を攻撃するだけでなく、他の免疫細胞を活性化させて攻撃力を高める働きがあるとされています。

 

移植する細胞数は1回目は 3000万個で、2回目以降は副作用と効果を見ながら増減させていき、計3回 投与します。

移植後2年間、安全性やガン縮小の効果を調べます。

 

NKT細胞は血液中に0.1%ほどしかなく、培養にも時間が掛かるので、これまでは繰り返し投与するのは難しいとされていました。 

こうした課題を解決するため、理研の古関明彦チームリーダーらは、

無限に増やせるiPS細胞からNKT細胞を大量に作る手法を開発。

マウスを使った実験では、ガンの増殖を抑えるなどの効果を確認した。

今回の試験で安全性に問題がなければ、次は有効性を調べる治験に入る予定としています。

 

ヒトのiPS細胞(人口多能性幹細胞)から作った免疫細胞(NKT細胞)でガン治療を目指す、理化学研究所千葉大チームの臨床試験(治験)計画は、iPS細胞を使った新たな「免疫療法」となる可能性がありますが、

iPS細胞には、「ガン化の恐れ」という共通の課題があります。

今回の臨床試験で投与する「NKT細胞」は、元は他人の細胞のためガン細胞を攻撃した後には、患者の拒絶反応によって排除されて、ガン化などの悪影響はないと考えられていますが、治験で慎重に確認する必要があります。

 

インフルエンザ治療薬「ゾフルーザ」の耐性ウイルスが検出

インフルエンザの新しい治療薬「ゾフルーザ」を使った患者から、治療薬に耐性を持つ変異ウイルスが発見されたと、国立感染症研究所が発表しました。

厚生労働省によると、国の研究機関として実際の治療で検出を確認したのは初めて。

「ゾフルーザ」は、臨床試験の段階から、ほかのインフルエンザ治療薬よりも耐性ウイルスが生まれやすいことは指摘されていました。

 

薬剤耐性化とは、

ウイルスや細菌が、変異して薬に対応できるようになることで耐性化すると、

その薬が効かなくなってしまうことです。

 

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A型インフルエンザウイルス(H3N2型)に感染した21人に対してゾフルーザを使ったところ、 2人から薬剤耐性(耐性変異ウイルス)が検出されたとのデータを国立感染症研究所が公開。

このウイルスは、他の2人から検出された耐性変異を持たないウイルスに比べて、76~120倍 ゾフルーザの効きが低下。

 

厚労省によると、この「ゾフルーザ」が効果が低下するよう変異したウイルスが初めて確認されたとしています。

タミフル」など、ほかのインフルエンザ治療薬に対しても、耐性ウイルスは既に確認されていますが、

厚労省は、こうした耐性ウイルスが検出される割合は、1~4%程度だとしていて、ウイルスに耐性をもたせないためにも薬を処方通りに飲み切ることが重要だとしています。

感染研インフルエンザウイルス研究センターの高下恵美 主任研究官は、

「引き続き情報を集めていく必要がある」と話しています。

 

 

インフルエンザ治療薬は、

タミフル」「リレザ」「イナビル」の3種類でしたが、

塩野義製薬が開発し、2018年3月発売開始したゾフルーザは、

5日間連続で飲み続けたり、吸入が必要だったりする従来の薬と比べて、

ゾフルーザは錠剤を1回飲むだけで済む手軽さもあり、ネットなどでも「画期的な治療薬」として話題になったりして、急速にシェアを拡大しています。

タミフルなど従来のインフルエンザ薬が、細胞内で増殖したウイルスの拡散を抑えるのに対し、ゾフルーザは、細胞内のウイルスの増殖自体を抑えます。)

塩野義製薬は、2018年の第2四半期決算説明資料で、

ゾフルーザを含む抗インフルエンザウイルス薬の国内シェアが約 65%(ゾフルーザの国内売上高、約 130億円)になると発表していました。

今回の厚労省の発表を受けて、処方の第1選択をゾフルーザから「イナビル」に変更した病院もあったりなどしていて、少しずつゾフルーザのシェアが減っていくかもしれません。

 

 

「1回の投与で済む」「耐性化しない場合は、ウイルス排泄量が早く減少」など、

効果には期待しながらも、

一方で、「耐性化のリスク」「コスト(税金と健康保険と自己負担)」「未知の副作用があるかも」と指摘もあり、

ゾフルーザの使用に慎重な姿勢を示す医療機関もあります。

また、薬価の問題もあります。

1回の治療費はゾフルーザが4789円、

タミフルが2720円、

2018年発売のタミフルジェネリックは1360円。

医療保険加入者は、この1~3割負担) 

厚労省の推計によると、1シーズンでのインフルエンザ患者数は1000万人にとも言われていますので、

1000万人に対して、ゾフルーザとタミフルジェネリックをそれぞれ処方した場合、その差は 350億円近くにもなり、社会保障費における重要なコスト削減のポイントとなる。

 

塩野義製薬はゾフルーザについて、

「処方の最終判断は医師にお任せしています。今シーズンから本格的に使われ始めたため、(耐性ウイルスについても)調査・解析を進めているところ。揃った段階でデータを開示していきたい」と話しています。