腸内細菌叢がインフルエンザワクチンの効果を高める

東京大学の研究グループは、

腸内細菌由来の代謝産物や外気温や摂食量などが、

インフルエンザウイルス感染後の免疫応答やワクチン効果に影響を及ぼすことを世界で初めて見出した。

 

腸内細菌叢(ちょうないさいきんそう)が、インフルエンザウイルスの特異的な免疫応答に役立っているとしています。

過度なダイエットなどが、インフルエンザワクチンの効果を低下させる可能性があります。

この研究成果は、

東京大学医科学研究所 感染症国際研究センターウイルス学分野の一戸猛志 准教授、

同センターおよび日本学術振興会特別研究員の森山美優 氏らの研究チームが、「米国科学アカデミー紀要」に発表しています。

 

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ヒトは健康な腸内細菌の働きにより、消化酵素では消化できない食物繊維を消化して、短鎖脂肪酸酪酸、プロピオン酸、酢酸)などの腸内細菌由来の代謝産物が多く作られます。

短鎖脂肪酸とは、

腸内で食物繊維や難消化性の糖質(オリゴ糖)の発酵で生じる「酢酸」「プロピオン酸」「酪酸」「イソ酪酸」「乳酸」「コハク酸」などの炭素の数が7個以下の脂質のこと。

 

一方、暑さによる食欲の低下や、抗生物質による腸内細菌叢のバランスの破綻などにより、腸内細菌叢由来の代謝産物の産生は低下します。

 

また、地球温暖化によって ジカウイルスを媒介する蚊や、重症熱性血小板減少症候群SFTS)ウイルスを媒介するマダニなど、感染症を媒介するさまざまな生物の生息域が拡していますが、外気温がウイルス感染後に誘導される免疫応答に与える影響については不明でした。

また 腸内細菌叢がインフルエンザウイルスに対する免疫応答の誘導に役立つ理由も未解明のままでした。

 

 

研究グループは今回の研究で、

地球温暖化を想定した36℃という暑い環境でマウスを飼育。

これが22℃で飼育したマウスに比べて、インフルエンザウイルス、ジカウイルス、SFTSウイルスの感染後に誘導される免疫応答が低下することを確認。

暑い環境で飼育したマウスは摂食量が低下し、このことが免疫応答を低下させる要因となっていると考えられています。

そこで研究グループは、宿主の栄養状態がインフルエンザウイルスに対する免疫応答の誘導に重要な役割を果たすという仮説を立てて検証。

 

その結果、36℃で飼育したマウスに3種類の短鎖脂肪酸酪酸、プロピオン酸、酢酸)やグルコースを投与すると、低下していたウイルス特異的な免疫応答が部分的に回復することを突き止めました。

さらに 36℃で飼育したマウスの体内では、4℃や22℃で飼育したマウスに比べて、体内のウイルス増殖が高くなり、

ウイルスを排除するまでにかかる時間が長くなることも分かっています。

22℃で飼育したマウスの餌の量を半分に制限したところ、肺組織のオートファジー応答が亢進し、インフルエンザウイルス感染後の免疫応答が低下することも確認。

インフルエンザウイルスの感染に対する免疫応答の誘導には、バランスの良い腸内細菌叢が必要で、それには気温の影響が大きいことが明らかになっています。

 

これらのことから、外気温がウイルス特異的な免疫応答の誘導に影響し、腸内細菌叢がインフルエンザウイルス特異的な免疫応答に役立つことを、世界ではじめて明らかにした。

 

ヒトの生活は、外気温に大きく影響を受けています。

インフルエンザウイルスの流行がピークとなる1月の東京の平均気温は5℃。

外気温が、ウイルス感染後の免疫応答に与える影響を解明する意義は大きい。

 

ワクチンなどと混合して投与することで、その抗原に対する免疫応答を増強させる物質をアジュバントと言います。

この研究成果は、経鼻ワクチンの効果を食品成分により改善する新しいアジュバントの開発などにも役立つと期待される。

 

 

「日本では女性のやせが多い。過度なダイエットはインフルエンザワクチンの効果を低下させる可能性がある」と、研究者は指摘している。 

これらの成果は、外気温がウイルス特異的な免疫応答の誘導に影響を与えることを示した世界で初めての例であり、腸内細菌叢がインフルエンザウイルス特異的な免疫応答に役立つ理由を解明した極めて重要な知見です。

 

また 地球温暖化や食糧危機・過度なダイエットが、アメリカで認可されている弱毒生インフルエンザワクチンや、日本でも臨床試験段階にある経鼻投与型インフルエンザワクチンなどの効果を低下させる可能性を示唆するものであり、これらのことを正しく理解して、対策を講じるにはさらなる研究が必要としています。