ラットの体内でES細胞からマウスの腎臓を作製

平林真澄 准教授(自然科学研究機構生理学研究所

中内啓光 特任教授(東京大学

保地眞一 教授(信州大学 繊維学部)

などによる共同研究チームが、

身体のさまざまな組織に変化する「万能細胞」の一種であるES細胞(胚性幹細胞)から、「異種胚盤胞補完法」という特殊な方法を用いて、腎臓が欠損したラットの体内に、マウスの腎臓を作製することに世界で初めて成功。

イギリス科学誌「ネイチャー・コミュニケーションズ(電子版)」に発表しています。

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この技術が、将来 移植用のヒトの腎臓作製実現につながる可能性があると期待されています。(腎移植ドナー不足問題の解決策となる可能性)

 

しかし、あくまで今回の成功は初めの一歩に過ぎません。

ヒトの臓器に応用できるようになるまでには「重大な技術上の障壁および複雑な倫理上の問題」が残っているとの意見もあります。

 

これと同様の技術は過去にも、ラットの体内でマウス由来の膵臓(すいぞう)を作製する研究に用いられたことがあります。

しかし、

今回の最新の研究はこの技術が将来、腎移植ドナー不足問題の解決策となる可能性があることを初めて証明。

この技術が応用できれば、ブタなどの大型動物で人間の臓器を作れる可能性があり、チームは「移植用の臓器を作製する再生医療の発展に貢献できる」としています。

 

 

今回の研究は、

腎臓の作製を可能にする適切な「宿主」を作ることから始まります。

研究チームは、遺伝子操作で腎臓を作れないようにしたラットの胚に、マウスのES細胞(多能性幹細胞)を注入。

この胚をラットの子宮に移植して、子どもを産ませました。

この結果、マウス由来の幹細胞からラットの体内で、機能的とみられる腎臓を作ることに成功。

ほとんどはマウスの細胞で構成されていましたが、「糸球体」と呼ばれる血液中の老廃物を濾過(ろか)する毛細血管の塊と、尿の通り道である「集合管」は、ラットとマウスの細胞が混ざっていました。

(しかし、同様の遺伝子操作をしたマウスの胚にラット由来の幹細胞を注入しても、同様の結果は得られていません。)

 

これは、さまざまな組織に分化するES細胞が臓器の空白を補完しようと、腎臓の細胞に分化したとみられます。

チームによると、今回の成果でヒトの腎臓を他の動物の体内で作製できる可能性が示されたとしています。

ただ ラットの体内にできたマウス腎臓を調べたところ、血管などにラットの細胞も混ざっていた。

このため チームは今後、マウスだけの細胞から成る腎臓の作製方法を確立し、将来的にはブタなど大型の哺乳類の体内でヒトの腎臓を作る実験へと繋げたい考えです

 

腎臓は、血液中の老廃物を濾過(ろか)して、体の外に出す機能を持ちますが、腎機能が数ヶ月~数十年掛けて徐々に低下していってしまう慢性腎不全になり、人工透析を受ける患者は、日本国内だけでも約 33万人いるとされています。

根本的な治療は腎臓移植ですが、臓器提供者(ドナー)は少なく、ドナー不足のため移植を受けられる患者は、希望者の1~2%ほどに限られているのが現状です。

 

同研究所の平林真澄 准教授(発生工学)は、

「異なる動物の細胞が混ざらないように改良できれば、移植に適した腎臓の作製につながる」

「将来的にこの方法でヒトの腎臓を作り、移植で実用できる可能性を示せた」と話しています。

 

 

政府は動物の体内での人の臓器の作製を禁じてきましたが、2019年春頃にも基礎研究を解禁する見通しで、この研究チームの一員でもある 中内 特任教授らは解禁され次第、東京大学に研究を申請する計画です。

 

将来的に、

全ての組織が多能性幹細胞由来の細胞で作製することが出来れば、免疫抑制剤を過度に使用しないで済む、

より負担の少ない移植用ドナー腎を作製することにつながる。

 

「腎臓という大型主要臓器の再生に、世界で初めて成功」という今回の研究成果は、移植臓器を作製する再生医療の発展に大きく貢献すると期待されています。