ラットの体内でES細胞からマウスの腎臓を作製
平林真澄 准教授(自然科学研究機構生理学研究所)
中内啓光 特任教授(東京大学)
保地眞一 教授(信州大学 繊維学部)
などによる共同研究チームが、
身体のさまざまな組織に変化する「万能細胞」の一種であるES細胞(胚性幹細胞)から、「異種胚盤胞補完法」という特殊な方法を用いて、腎臓が欠損したラットの体内に、マウスの腎臓を作製することに世界で初めて成功。
イギリス科学誌「ネイチャー・コミュニケーションズ(電子版)」に発表しています。
この技術が、将来 移植用のヒトの腎臓作製実現につながる可能性があると期待されています。(腎移植ドナー不足問題の解決策となる可能性)
しかし、あくまで今回の成功は初めの一歩に過ぎません。
ヒトの臓器に応用できるようになるまでには「重大な技術上の障壁および複雑な倫理上の問題」が残っているとの意見もあります。
これと同様の技術は過去にも、ラットの体内でマウス由来の膵臓(すいぞう)を作製する研究に用いられたことがあります。
しかし、
今回の最新の研究はこの技術が将来、腎移植ドナー不足問題の解決策となる可能性があることを初めて証明。
この技術が応用できれば、ブタなどの大型動物で人間の臓器を作れる可能性があり、チームは「移植用の臓器を作製する再生医療の発展に貢献できる」としています。
今回の研究は、
腎臓の作製を可能にする適切な「宿主」を作ることから始まります。
研究チームは、遺伝子操作で腎臓を作れないようにしたラットの胚に、マウスのES細胞(多能性幹細胞)を注入。
この胚をラットの子宮に移植して、子どもを産ませました。
この結果、マウス由来の幹細胞からラットの体内で、機能的とみられる腎臓を作ることに成功。
ほとんどはマウスの細胞で構成されていましたが、「糸球体」と呼ばれる血液中の老廃物を濾過(ろか)する毛細血管の塊と、尿の通り道である「集合管」は、ラットとマウスの細胞が混ざっていました。
(しかし、同様の遺伝子操作をしたマウスの胚にラット由来の幹細胞を注入しても、同様の結果は得られていません。)
これは、さまざまな組織に分化するES細胞が臓器の空白を補完しようと、腎臓の細胞に分化したとみられます。
チームによると、今回の成果でヒトの腎臓を他の動物の体内で作製できる可能性が示されたとしています。
ただ ラットの体内にできたマウス腎臓を調べたところ、血管などにラットの細胞も混ざっていた。
このため チームは今後、マウスだけの細胞から成る腎臓の作製方法を確立し、将来的にはブタなど大型の哺乳類の体内でヒトの腎臓を作る実験へと繋げたい考えです。
腎臓は、血液中の老廃物を濾過(ろか)して、体の外に出す機能を持ちますが、腎機能が数ヶ月~数十年掛けて徐々に低下していってしまう慢性腎不全になり、人工透析を受ける患者は、日本国内だけでも約 33万人いるとされています。
根本的な治療は腎臓移植ですが、臓器提供者(ドナー)は少なく、ドナー不足のため移植を受けられる患者は、希望者の1~2%ほどに限られているのが現状です。
同研究所の平林真澄 准教授(発生工学)は、
「異なる動物の細胞が混ざらないように改良できれば、移植に適した腎臓の作製につながる」
「将来的にこの方法でヒトの腎臓を作り、移植で実用できる可能性を示せた」と話しています。
政府は動物の体内での人の臓器の作製を禁じてきましたが、2019年春頃にも基礎研究を解禁する見通しで、この研究チームの一員でもある 中内 特任教授らは解禁され次第、東京大学に研究を申請する計画です。
将来的に、
全ての組織が多能性幹細胞由来の細胞で作製することが出来れば、免疫抑制剤を過度に使用しないで済む、
より負担の少ない移植用ドナー腎を作製することにつながる。
「腎臓という大型主要臓器の再生に、世界で初めて成功」という今回の研究成果は、移植臓器を作製する再生医療の発展に大きく貢献すると期待されています。
腸内細菌叢がインフルエンザワクチンの効果を高める
東京大学の研究グループは、
腸内細菌由来の代謝産物や外気温や摂食量などが、
インフルエンザウイルス感染後の免疫応答やワクチン効果に影響を及ぼすことを世界で初めて見出した。
腸内細菌叢(ちょうないさいきんそう)が、インフルエンザウイルスの特異的な免疫応答に役立っているとしています。
過度なダイエットなどが、インフルエンザワクチンの効果を低下させる可能性があります。
この研究成果は、
東京大学医科学研究所 感染症国際研究センターウイルス学分野の一戸猛志 准教授、
同センターおよび日本学術振興会特別研究員の森山美優 氏らの研究チームが、「米国科学アカデミー紀要」に発表しています。
ヒトは健康な腸内細菌の働きにより、消化酵素では消化できない食物繊維を消化して、短鎖脂肪酸(酪酸、プロピオン酸、酢酸)などの腸内細菌由来の代謝産物が多く作られます。
※短鎖脂肪酸とは、
腸内で食物繊維や難消化性の糖質(オリゴ糖)の発酵で生じる「酢酸」「プロピオン酸」「酪酸」「イソ酪酸」「乳酸」「コハク酸」などの炭素の数が7個以下の脂質のこと。
一方、暑さによる食欲の低下や、抗生物質による腸内細菌叢のバランスの破綻などにより、腸内細菌叢由来の代謝産物の産生は低下します。
また、地球温暖化によって ジカウイルスを媒介する蚊や、重症熱性血小板減少症候群(SFTS)ウイルスを媒介するマダニなど、感染症を媒介するさまざまな生物の生息域が拡していますが、外気温がウイルス感染後に誘導される免疫応答に与える影響については不明でした。
また 腸内細菌叢がインフルエンザウイルスに対する免疫応答の誘導に役立つ理由も未解明のままでした。
研究グループは今回の研究で、
地球温暖化を想定した36℃という暑い環境でマウスを飼育。
これが22℃で飼育したマウスに比べて、インフルエンザウイルス、ジカウイルス、SFTSウイルスの感染後に誘導される免疫応答が低下することを確認。
暑い環境で飼育したマウスは摂食量が低下し、このことが免疫応答を低下させる要因となっていると考えられています。
そこで研究グループは、宿主の栄養状態がインフルエンザウイルスに対する免疫応答の誘導に重要な役割を果たすという仮説を立てて検証。
その結果、36℃で飼育したマウスに3種類の短鎖脂肪酸(酪酸、プロピオン酸、酢酸)やグルコースを投与すると、低下していたウイルス特異的な免疫応答が部分的に回復することを突き止めました。
さらに 36℃で飼育したマウスの体内では、4℃や22℃で飼育したマウスに比べて、体内のウイルス増殖が高くなり、
ウイルスを排除するまでにかかる時間が長くなることも分かっています。
22℃で飼育したマウスの餌の量を半分に制限したところ、肺組織のオートファジー応答が亢進し、インフルエンザウイルス感染後の免疫応答が低下することも確認。
インフルエンザウイルスの感染に対する免疫応答の誘導には、バランスの良い腸内細菌叢が必要で、それには気温の影響が大きいことが明らかになっています。
これらのことから、外気温がウイルス特異的な免疫応答の誘導に影響し、腸内細菌叢がインフルエンザウイルス特異的な免疫応答に役立つことを、世界ではじめて明らかにした。
ヒトの生活は、外気温に大きく影響を受けています。
インフルエンザウイルスの流行がピークとなる1月の東京の平均気温は5℃。
外気温が、ウイルス感染後の免疫応答に与える影響を解明する意義は大きい。
ワクチンなどと混合して投与することで、その抗原に対する免疫応答を増強させる物質を「アジュバント」と言います。
この研究成果は、経鼻ワクチンの効果を食品成分により改善する新しいアジュバントの開発などにも役立つと期待される。
「日本では女性のやせが多い。過度なダイエットはインフルエンザワクチンの効果を低下させる可能性がある」と、研究者は指摘している。
これらの成果は、外気温がウイルス特異的な免疫応答の誘導に影響を与えることを示した世界で初めての例であり、腸内細菌叢がインフルエンザウイルス特異的な免疫応答に役立つ理由を解明した極めて重要な知見です。
また 地球温暖化や食糧危機・過度なダイエットが、アメリカで認可されている弱毒生インフルエンザワクチンや、日本でも臨床試験段階にある経鼻投与型インフルエンザワクチンなどの効果を低下させる可能性を示唆するものであり、これらのことを正しく理解して、対策を講じるにはさらなる研究が必要としています。
白血球の血液型、日本人は11種類に分類
日本人の遺伝情報を解析した結果、
血液成分の一つである「白血球」の血液型は、大きく11種類に分類できることが分かったと、大阪大の岡田随象教授(遺伝統計学)らの研究チームが発表。
研究チームは、
型の違いによって、ガンや心疾患・糖尿病などの発症や、体格に差が出ることも分かったとしています。
骨髄移植などの際に照合される「白血球」は、免疫機能に関わっているため、この発見によって拒絶反応が問題となる移植医療への活用が期待されるとしています。
この成果は、イギリスの科学誌「ネイチャー・ジェネティクス(電子版)」に掲載されています。
一般的に「血液型」(A、B、O、AB型)と呼ばれるものは、「赤血球」の型のことで、赤血球の表面にある物質の種類によって(ABO遺伝子の個人差)、4つに分類されます。
これに対し、免疫細胞である白血球の型は「HLA」という遺伝子の組み合わせで決まり、主に免疫反応に関係します。
HLA遺伝子は主要なものだけでもA、B、DRB1など8種類、その他にも複数種類あり、遺伝子配列の構造が複雑なので解読が困難で、白血球型の詳細は不明でした。
チームは、最先端の高速解読技術と人工知能(AI)で活用されているデータ解析手法を用いて、日本人1120人のゲノム(遺伝情報)を解析。
HLAに関わる遺伝子が33個あることを突き止めました。
各遺伝子の配列は一人ひとり微妙に違い、配列が近いものをグループ分けすると、大きく11に分類できたとしています。
さらに 日本人の約 17万人分のゲノムや病気、体格などのデータベースと照らし合わせた結果、白血球型によってアレルギー疾患や肺ガン・肝臓ガンといった病気の罹患率など、計52項目で違いがみられることが分かっています。
中には心筋梗塞の発症や身長・肥満など、一見すると免疫とは関係がなさそうな項目も含まれていたとしています。
研究チームの岡田随象 教授は、
「心筋梗塞や体格などにも違いが出たのは意外だった。さらに研究を進めて理由を調べ、医療に役立てたい」と話している。
脳の銅 蓄積がダウン症に関係
京都薬科大学病(病態生化学分野)の石原慶一 講師、秋葉聡 教授らの共同研究グループが、これまでメカニズムが不明であったダウン症における脳での酸化ストレス亢進(こうしん)に銅蓄積が関与していることを世界で初めて見いだした。
これは 銅の量的変動がダウン症の病態に関与している可能性を示唆する新規知見となります。
今後のダウン症の病態メカニズムの理解、治療法の開発に大きく貢献すると期待されます。
この研究成果は、アメリカの国際学術誌「フリーラジカル バイオロジカルアンドメディシン(電子版)」に掲載されています。
ダウン症は、
約700人に1人の確率で発生する最も頻度の高い染色体異常として知られています。
通常2本の21番染色体が3本(トリソミー)となることで精神発達遅滞や記憶学習障害といった様々な症状が現れる。
また 脳の神経細胞の数が少なくなることでも知られていますが、なぜそうなるかは不明でした。
これらダウン症の症状には、酸化ストレス(酸化作用による有害作用)の亢進の関与が示唆されていて、
実際に ダウン症モデルマウスの脳での銅蓄積を見出し、低銅食投与により酸化ストレスの亢進および不安様行動の低下が軽減されたことから、銅蓄積によってこれらの異常表現型が起こることを明らかにしていました。
しかし、「ダウン症において、なぜ酸化ストレスが亢進するのか」については不明でした。
今回 共同研究グループは、金属イオンを含む多くの元素量を網羅的に解析できる「メタロミクス解析技術」を用いて、ダウン症モデルマウスの脳において銅が過剰に蓄積していることを発見した。
さらに 銅低減食を与えることで、脳での酸化ストレス亢進や一部の異常行動を抑制することも確認しています。
今回の成果は、ダウン症の酸化ストレスの亢進やダウン症の症状において銅の蓄積の関与を示唆するものであり、今後、病態メカニズムの理解、治療法の開発に大きく貢献すると期待されます。
銅は、魚介類などに豊富に含まれていて、ヒトの体内にも常に一定量は存在しています。
ヒトのダウン症と銅の蓄積の関係は分かっていませんが、この研究チームの石原慶一 講師(京都薬科大学)は、
「過剰な銅の蓄積によって脳内で活性酵素ができ、神経を傷つける一因になっている可能性がある」と話しています。
国産初の遺伝子治療薬『コラテジェン』
体内に遺伝子を入れて病気を治す「遺伝子治療薬」が、
早ければ 2019年5月にも日本で初めて登場する見込みとなります。
薬事承認の手続きに基づいて、厚生労働省の専門家会議で足の血管を再生する薬と血液がん治療薬の承認が了承されました。
遺伝子治療薬の開発は海外の製薬企業が先行するなか、血管再生薬については日本企業初の承認事例となります。
これが難病患者の治療に道を開くことにも繋がると期待されます。
血管再生で承認されたのは、東証マザーズに上場する大阪大発の創薬ベンチャー「アンジェス」が開発したヒト肝細胞増殖因子(HGF)遺伝子治療薬「コラテジェン」。
コラテジェンは、
標準薬物治療の効果が不十分で、血行再建術が難しい慢性動脈閉塞症(閉塞性動脈硬化症・バージャー病)における潰瘍の改善を効能・効果として、
国内の投与対象者数は年間270人ほど。
海外で承認している国は、現在はありません。
重症の動脈硬化で血管がつまった足に、新たな血管を作る遺伝子(HGF)を注射して、詰まった部分の周囲の筋肉で働かせて、治療。
臨床試験では、患者の約7割で症状が改善したとしています。
閉塞性動脈硬化症は、糖尿病患者などに多く、
血管が詰まって足などが壊死や潰瘍を起こします。重症になると、足の切断もあります。
治療対象の患者は、年間5000~20000人ほどと言われています。
患部の筋肉に2~3回に分けて注射する。
阪大病院などで患者 24人に投与した結果、うち 13人で潰瘍が治る効果を確認し、
目立った副作用はなかったとしています。
厚労省の部会は「効果は推定段階」と判断。
承認は5年間の「期間限定」とし、
今後5年間で、投与した120人と投与しない80人を比較して、有効性を評価することを正式承認の条件とした。
正式承認を経て、薬価は2019年5月にも決まるとされていますが、
複数の関係者によると、治療費は1人あたり200万~300万円になるよう設定されるとの見方もあります。
アンジェスは大阪大学発の企業でマザーズに2002年上場し、会社を設立した1999年からコラテジェンの開発を手掛けてきました。
2008年にコラテジェンを承認申請しましたが、
データ不足でいったん取り下げ、2018年1月に再申請しています。
遺伝子治療薬は「究極の医療」と期待されていて、
従来治療の難しかった病気を治すと言われています。
様々な病気で原因が突き止められ、遺伝子治療薬の有効性を示す報告も増えています。
イギリスの調査会社「エバリュエート」によると、
2024年の遺伝子治療薬の世界市場は1.7兆円で医薬品全体の1%の見込み。
これまでに世界で承認されているのは約10製品。
ただ、年率100%を超す大きな成長が見込まれいて、
アメリカでは今後 毎年約 10品目が承認される見通しです。
日本でも、毎年複数の製品が発売される予定です。
患者は少数でも高い薬価が期待でき、各国政府も早期承認制度などで開発を後押ししています。
従来では15年ほどかかっていた新薬発売までの期間が、遺伝子治療薬なら数年に短縮でき、製薬企業のリスクを抑えると言われています。
ただ、薬価が高額のため社会保障費の増大につながり、財政を圧迫するとの懸念もあります。
遺伝子治療薬の実用化で日本は出遅れいます。
低分子化合物やiPS細胞などの研究に予算や研究者が集まり、遺伝子治療の研究が停滞したことがある。
ただ、ここにきて日本企業も相次ぎ開発に着手している。
「第一三共」は東京大学と組み、脳腫瘍の遺伝子治療薬を開発中で、早ければ2019年中にも承認を得る見通し、
「アステラス製薬」や「武田薬品工業」も、血友病などの遺伝子治療薬の開発を続けています。
認知症と腸内細菌が強く関連している
「認知症の人は、腸内のバクテロイデスが低い傾向」
国立長寿医療研究センターや東北大、久留米大などの共同研究で、腸内細菌は認知症と強く関連していることを見出しました。
これにより 食事や生活習慣との関連を調べることで、認知症のリスクを減らす糸口が見つかる可能性があるとしています。
この成果は、国立長寿医療研究センターもの忘れセンター 佐治直樹 副センター長らを中心とした共同研究チームによるもので、イギリス科学誌「サイエンティフィック・リポーツ」に発表しています。
人の腸には1000種類以上、約 1キログラムの細菌がいると言われていて、年齢や食事などで腸内細菌の構成割合が変わります。
研究チームは 2016年3月から1年間に、もの忘れセンターもの忘れ外来を受診した認知症患者34人(74~82歳)と、
認知症でない94人(68~80歳)の便に含まれる細菌の種類を比較し、
認知機能検査や頭部MRI(磁気共鳴断層撮影)検査などを実施し、検便サンプルを同センターのバイオバンクに収集。
それらから腸内の細菌の構成割合や認知症の有無を調べた。
微生物解析の専門企業である「株式会社テクノスルガ・ラボ」に検便サンプルを送付し、T-RFLP法(糞便から細菌由来のDNAを抽出し腸内フローラを網羅的に解析する手法)を用いて、腸内フローラを解析しました。
さらに 腸内フローラの組成と認知症との関連について、久留米大学バイオ統計センターと協力して統計学的に分析し、有効なデータが得られた60~80代128人分を解析したところ、やせ形の人に多いとされる常在菌「バクテロイデス」が3割以上を占めている人は、認知症の傾向が少ないことが分かっています。(その他の細菌が多い人に比べて、約10分の1)
逆に、バクテロイデスが少なく種類不明の細菌が多い人は、そうでない人に比べて罹患率が約18倍もあることも判明しています。
腸内細菌の状態によって、認知症のリスクを高める可能性があるのかどうかが、今回の研究で示されたとしています。
腸内細菌の構成割合と認知症発症の因果関係はわからないが、腸内細菌の作る物質が脳の炎症を引き起こす可能性が考えられる。
同センターは、メカニズムの解明に向けて研究を続けるとしています。
国立長寿医療研究センターもの忘れセンターは、
「今後も東北大学と共同で、食事習慣・栄養の視点からも腸内フローラとの関連について調査を進める予定」と話しています。
腸内細菌が認知機能に関連するという新しい知見は興味深く、腸内細菌の詳細な解析が認知症の治療法や予防法の開発のための新たな切り口になるかもしれません。
国立長寿医療研究センターもの忘れセンター 佐治直樹 副センター長のコメント
「今後、対象となった患者の追跡調査を進めて因果関係を調べる。食習慣との関連も解明して食事などを通じた予防法の開発にもつなげていきたい」
「食生活や栄養環境の面で、認知症のリスクを減らす糸口が見つかるきっかけになる可能性がある」
「認知症の早期発見や予防を考える上で、腸内の細菌状態が目安になる」
認知症の有病者数は、全世界で2015年には4680万人でしたが、2050年までに3倍に増えると予測されています。
日本だけを見ても、2012年に65歳以上の15%に当たる462万人が認知症とみられており、今後も増加傾向が続くと考えられています。
高感度で検出する 新しいインフルエンザ診断法
東京大学の研究グループが「デジタルインフルエンザ検出法」を開発しました。
既存の検査法よりも1000倍~10000倍の感度で、感染初期からインフルエンザウイルス検出が可能。
早期に治療を始めることで重症化の防止が期待できます。
この検査法ではうがいで使った水でも検査可能で、調べる際に痛みがないのも利点です。
この研究チームは、
「発症直後から治療すれば、身体から出るウイルスが減らせるため、流行の拡大も抑えられる」としており、数年後の実用化を目指しています。
この研究成果は、イギリス科学誌「サイエンティフィックリポーツ」に掲載されています。
インフルエンザは、
定期的に世界的な大流行(パンデミック)を引き起こす感染症で、これまでにも多くの死者や経済的損失を出しています。
抗ウイルス薬による治療が可能な上に、症状が出る前に服薬すれば発症前に治癒できるので、より早期に診断できる高感度な検査・診断が必要です。
しかし、既存の検査法である「イムノクロマト法」は、抗原抗体反応を利用する方法で、
インフルエンザウイルスのほか、ノロウイルスやアデノウイルスの検出などでも広く使われていますが、ウイルスの量が一定量以上ないと 有無を判定できない。
しかも 症状が現れてから、12~24時間経過しないと正確な診断結果が得られないため、より早期に診断できる検査法が求められていました。
東京大学大学院工学系研究科の田端和仁 講師、皆川慶嘉 主任研究員、野地博行 教授らの研究グループは、
ウイルス表面にあるタンパク質「ノイラミニダーゼ」と反応して光を発する試薬(蛍光基質)を用意。
60万個の微小な穴がある容器に患者の検体と試薬を入れ、光を発する穴の数で感染の有無や濃度を調べる方法の開発に成功。
極めて微小な空間にインフルエンザウイルス1つを閉じ込めて検出する「デジタインフルエンザ検出法」と名付けられました。
この研究は、内閣府・総合科学技術・イノベーション会議が主導する革新的研究開発推進プログラム(ImPACT)の一環として進められました。
現在 多くの診療所では、インフルエンザの感染の有無の診断に鼻腔拭い液を使っています。(綿棒を鼻や喉の奥まで入れて粘液を採取するため、乳幼児には身体的負担が大きい)
デジタルインフルエンザ検出法なら、
だ液やうがい液などでも判定可能で、負担が小さい診断法の実用化へ繋がります。
実際に、イムノクロマト法で使用される鼻腔拭い液よりもウイルス濃度の低い うがい液からでもウイルス検出に成功し、個人での検査や痛みのない検査の実現に道を開きました。
この新検査法を診断に本格的に導入できれば、より早期の診断も可能なので、
初期症状のうちから適切な手当をすることによって、症状の重篤化や流行拡大を抑えることにも期待できます。
研究チームは、「発症前でも身体から出るウイルスを検出できる可能性があり、タミフルなどのインフルエンザ治療薬を服用すれば、発症しないまま治すことも出来そう」だと話しています。
がん免疫治療薬と筋肉量の関係
筋肉量が薬の効果を予測して、高額なガン免疫薬の投与を続けるかどうか見分ける指標の一つになる可能性がある。
「オプジーボ」などの新しいガン免疫治療薬の効果は、筋肉量が多い患者ほど長続きするという研究結果を、大阪大のチームが発表しています。
高額なガン免疫薬の投与を続けるかどうか見分ける指標になる可能性がある。
この研究結果は、イギリス科学誌「サイエンティフィック・リポーツ」に掲載されています。
肺ガンにおいて、免疫チェックポイント阻害薬(オプジーボなど)は日常臨床で用いられています。
体内の免疫を活性化させてガンを攻撃する「オプジーボ」や「キイトルーダ」は、一部の患者には劇的な効果がありますが、投与したうち2~3割の患者にしか効かない問題があります。
現在、治療効果の予測因子に関する研究が世界中で進められていますが、どの患者に高い治療効果を見込めるかを事前に予測することは難しい。
近年 筋肉は運動器官としてだけでなく、内分泌器官としての機能も注目されており、筋肉から分泌される「マイオカイン」(筋肉から分泌される生理活性物質)は、生活習慣病の予防や抗腫瘍効果をもつことが報告されています。
しかしながら、免疫チェックポイント阻害薬の治療効果と患者の筋肉量の関係については、これまで明らかになっていませんでした。
大阪大学医学部付属病院の白山敬之 特任助教と同大学院医学系研究科の熊ノ郷淳 教授らの研究チームは、オプジーボやキイトルーダの投与を受けた肺がん患者42人(30~80代)を対象に、腹部の筋肉量をコンピューター断層撮影装置(CT)で観測。
アジア人の平均的な筋肉量と比較し、筋肉量が多いグループと少ないグループに分け、治療効果との関係を追跡調査。
その結果、筋肉量が多いグループ(20人)では、薬の効果が7か月ほど続いたのに対し、筋肉量が少ないグループ(22人)は2か月ほどしか続かなかった。
効果が1年以上続いた人の割合も、筋肉量が多いグループの方が多かったとしています。
また すでに筋肉量が低下した患者は、そうでない患者に比べて投薬後にガンが進行するリスクが3倍ほど高くなったことも確認しています。
これによりオプジーボ治療における効果予測において、治療開始時点の筋肉量が重要な因子となる可能性が示唆されました。
研究チームの白山敬之 特任助教(呼吸器内科)は、
「筋肉からは、ガンの増殖を抑える物質が分泌されているとの報告もある。治療効果を上げるため、運動などで筋肉量を維持する取り組みが大切になるかもしれない」と話しています。
慢性腎臓病の緊急入院患者、体重が重い方が高い生存率
東京医科歯科大学の研究チームが、透析期腎不全患者のみならず、慢性腎不全患者(透析導入となっていない段階)においても「BMI高値」は予後良好となり得る可能性を示しています。
慢性腎臓病(CKD)患者は、塩分やタンパク質の制限などで摂取カロリーが少なくなりますが、これからは入院時は十分なカロリー摂取と体重維持が重視される可能性が示唆されています。
東京医科歯科大学の頼建光氏(同大大学院医歯学総合研究科茨城県腎臓疾患地域医療学寄附講座教授)と伏見清秀氏(同医療政策情報学分野特別研究教授)、菊池寛昭氏(腎臓内科大学院生)の研究チームが、この研究成果を 科学誌「PLOS ONE」で発表しています。
世界的にも有病率が極めて高い「慢性腎臓病(CKD)」は、進行性の疾患でもあり、生活習慣病や加齢などが原因で、腎臓の働きが低下する病気です。
発病しても自覚症状がほとんどなく、進行して末期腎不全になると透析療法を行うこととなり、一方で、心疾患・サルコペニアなどの重大な合併症リスクがあるため、予後不良となる。
CKD患者は「摂取カロリー」を制限しなければならない傾向にありますが、(塩分制限やタンパク摂取制限など)「摂取カロリー」を制限することが生命予後にどのような影響を与えるかは明らかにされていませんでした。
血液透析患者では、BMI(肥満度を表すボディマス指数)が高いほうが生命予後良好と関連する「肥満パラドックス」と呼ばれる現象が近年、注目されている。
CKDの病態は複雑・多様であり、保存期(透析を導入していない時期)のCKD患者の場合、その「至適BMI」の管理に関する研究は困難となっており、画一的な基準は未だ存在していません。
そこで、今回同研究グループは、DPCデータ(日本国内大規模診療データ)を用いて、緊急入院となった約2万6千人の透析導入となっていないCKD患者を抽出し、感染症合併の有無、糖尿病合併の有無で層別化を行い、「BMIと院内死亡率の関連」を検証した。
その結果、炎症性疾患合併の有無に関わらず、痩身は死亡リスクを増大させることが判明。
逆に、BMIが高ければ高いほど、入院中の予後が良好となる傾向があったとしています。
また、糖尿病を合併する感染症非合併群においては、肥満による生命予後に対するメリットは減弱しています。
さらに、糖尿病非合併のCKD患者においては、感染症合併の有無に関わらず、高体重が短期予後良好と関連する傾向が認められています。
CKDは、尿毒素などによって体内で慢性的に炎症が続き、エネルギーを失いやすい状態だと考えられています。
研究チームの頼建光 教授は、
「緊急入院し、体に大きな負荷がかかる状態では、体内に蓄えられた脂肪や筋肉のエネルギーの量が、生存率を左右するのではないか」と話しています。
今回の研究結果では、
国内の大規模診療データベースによる「保存期腎不全患者」を対象にして、
「感染症の有無」、「糖尿病合併の有無」による細かい層別化を可能とし、
それぞれのグループにおける「BMIと生命予後との関連」を明らかになり、
さらに、保存期CKDでは、十分なカロリー摂取と体重維持がより重要視される(高体重が生命予後の観点では有利となる)可能性が示唆されています。
研究チームでは、この研究結果は臨床的な意義があり、CKD患者のより適切な栄養管理の進歩にも寄与する可能性があるとしています。
老化物質を抑えると寿命が延びる?
大阪大学の吉森保 教授(細胞生物学)と中村修平 准教授らの研究チームは、
「オートファジー」と呼ばれる細胞内の新陳代謝の機能が加齢に伴って下がる原因を解明し、
ハエや線虫の実験では、加齢に伴って増える特定のタンパク質の働きを抑えることで、老化による運動機能低下の改善や寿命を延ばすことに成功したと発表しています。
これによりヒトに対しても、健康寿命を延ばす取り組みへの応用が期待できるとしています。
この成果は、イギリス科学誌「ネイチャー・コミュニケーションズ」に掲載されました。
研究チームは 2019年中にスタートアップを設立し、健康寿命を延ばす医薬品や食品の開発を目指しています。
この加齢に伴って増えるタンパク質は「ルビコン」と呼ばれるもので、
吉森教授らが2009年に発見しています。
ルビコンは、「オートファジー」(加齢に伴って増加して細胞内で不要なタンパク質を再利用する)の作用を抑えてしまう働きがあります。
これまでもオートファジーは加齢に伴って、低下することが知られていました。
研究チームは「ヒトの健康長寿にも生かせる可能性がある」としています。
『オートファジー』とは
細胞が病気の原因となる不要なタンパク質などを分解し、栄養になるアミノ酸に変えて再利用するシステムで、「自食作用」とも呼ばれる。
生活習慣病やガンなどの病気とも関わりがあると注目を集めています。
この仕組みは、2016年にノーベル生理学・医学賞を受賞した 大隅良典 (東京工業大栄誉教授)が発見しました。
研究チームは、
オートファジーを抑えてしまうルビコンと老化の関係をハエや線虫、マウスで詳しく調べ、ハエや線虫の体内では、老化するにつれてルビコンの量が1.5~2倍に増えることを確認。
そして、遺伝子操作でルビコンを作れなくして、オートファジーの働きを活性化させ、寿命や健康への影響を調べた。
その結果、ハエと線虫は寿命が最大で20%ほど延びました。
また、老化による運動機能の低下も改善したとしています。
さらにマウスの実験では、腎臓の組織が硬くなる「線維化」が抑えられたことも確認、パーキンソン病を起こす実験では、病気の原因となるタンパク質の蓄積も減っています。
研究チームは、ヒトでも同様の仕組みがあると考えています。
ルビコンの量を測定したり、薬剤で働きを阻害したりなど出来れば、加齢に伴って起きやすくなる疾患の治療に繋がる可能性があります。
大阪大学の吉森保 教授(細胞生物学)は、
「人の寿命を延ばせるかはわからないが、ルビコンの働きを抑える薬などがあれば、老後の健康を維持する方法につながるかもしれない」
「役に立つか分からない基礎研究から大きなイノベーションが生まれることを自ら実証したい」と、話しています。