老化物質を抑えると寿命が延びる?

大阪大学の吉森保 教授(細胞生物学)と中村修平 准教授らの研究チームは、

「オートファジー」と呼ばれる細胞内の新陳代謝の機能が加齢に伴って下がる原因を解明し、

ハエや線虫の実験では、加齢に伴って増える特定のタンパク質の働きを抑えることで、老化による運動機能低下の改善や寿命を延ばすことに成功したと発表しています。

これによりヒトに対しても、健康寿命を延ばす取り組みへの応用が期待できるとしています。

この成果は、イギリス科学誌「ネイチャー・コミュニケーションズ」に掲載されました。

研究チームは 2019年中にスタートアップを設立し、健康寿命を延ばす医薬品や食品の開発を目指しています。

 

この加齢に伴って増えるタンパク質は「ルビコン」と呼ばれるもので、

吉森教授らが2009年に発見しています。

ルビコンは、「オートファジー」(加齢に伴って増加して細胞内で不要なタンパク質を再利用する)の作用を抑えてしまう働きがあります。

これまでもオートファジーは加齢に伴って、低下することが知られていました。

研究チームは「ヒトの健康長寿にも生かせる可能性がある」としています。

 

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『オートファジー』とは

細胞が病気の原因となる不要なタンパク質などを分解し、栄養になるアミノ酸に変えて再利用するシステムで、「自食作用」とも呼ばれる。

生活習慣病やガンなどの病気とも関わりがあると注目を集めています。

この仕組みは、2016年にノーベル生理学・医学賞を受賞した 大隅良典 (東京工業大栄誉教授)が発見しました。

 

 

研究チームは、

オートファジーを抑えてしまうルビコンと老化の関係をハエや線虫、マウスで詳しく調べ、ハエや線虫の体内では、老化するにつれてルビコンの量が1.5~2倍に増えることを確認。

そして、遺伝子操作でルビコンを作れなくして、オートファジーの働きを活性化させ、寿命や健康への影響を調べた。

その結果、ハエと線虫は寿命が最大で20%ほど延びました。

また、老化による運動機能の低下も改善したとしています。

 

さらにマウスの実験では、腎臓の組織が硬くなる「線維化」が抑えられたことも確認、パーキンソン病を起こす実験では、病気の原因となるタンパク質の蓄積も減っています。

研究チームは、ヒトでも同様の仕組みがあると考えています。

 

ルビコンの量を測定したり、薬剤で働きを阻害したりなど出来れば、加齢に伴って起きやすくなる疾患の治療に繋がる可能性があります。

 

大阪大学の吉森保 教授(細胞生物学)は、

「人の寿命を延ばせるかはわからないが、ルビコンの働きを抑える薬などがあれば、老後の健康を維持する方法につながるかもしれない」

「役に立つか分からない基礎研究から大きなイノベーションが生まれることを自ら実証したい」と、話しています。