「先天性ネフローゼ症候群」治療薬を開発へ

小児腎臓病の1つで「先天性ネフローゼ症候群の病態(初期に起こる異常な働き)を再現させることに成功しました。

成功したのは、熊本大学発生医学研究所の谷川俊祐助教と西中村隆一教授らの研究チーム。

チームは、発病の仕組みの解明・有効な治療薬の開発につながると期待しています。

 

この研究成果はアメリカの科学誌「ステム・セル・リポーツ(電子版)」に掲載されます。

 

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小児腎臓病の「先天性ネフローゼ症候群」とは、生後3カ月以内に大量のタンパク質が尿から出てしまい、

全身がむくんだり、

悪化すると2~3年ほどで腎不全になります。

タンパク質の異常があることが原因となると考えられていましたが、これまではどういう仕組みで発症するか分かっていませんでした。


熊本大の西中村隆一教授らのグループは、

患者の皮膚から作ったiPS細胞で腎臓組織(2014年、世界で初めてiPS細胞から腎臓組織の作製に成功)を作製して、

病態(初期に起こるタンパク質の異常な働き)を再現することに成功。

 

その結果、血液から尿を濾過する腎臓内の膜を形成出来ていないことが判明。

これによって、

この病気の原因のひとつに、濾過(ろか)膜を構成する主要なタンパク質「ネフリン」の一部に異常があり、これの修復が治療の可能性を示すことを突き止めてました。

 

遺伝子を効率的に改変できるゲノム編集技術を使って、原因遺伝子「ネフリン」の異常を修復すると、機能が正常化することもマウスの実験で確認ができ、

これによって、ネフリンの異常が病気の原因であると特定できた。

(これまでも培養細胞やマウスを使った先天性ネフローゼ症候群の研究はありましたが、濾過膜を人工的に再現する方法がなかった)


チームは今後、このタンパク質や周辺の細胞に作用する薬の候補を探していくとのこと。

 

 

チームリーダー熊本大 発生医学研究所の西中村隆一教授のコメント

「病気の解明と薬剤の開発につなげたい」

「成人腎臓病の薬開発へ向けても大きく前進した」

「濾過機能を持つ細胞に、直接作用する薬を見つけられれば、他の種類の腎臓病治療でも効果が得られる可能性が出てくる。」

 

なお研究には、熊本大のほかに、順天堂大や広島大、琉球大も参加しています。

 


腎臓病は日本でも患者数が多く、機能悪化で人工透析が必要な患者は、32万5000人に上る。


先天性ネフローゼ症候群は、

ろ過の部位異常により血液中のタンパク質が尿中に漏れ出てしまう病気で、小児のネフローゼ症候群患者のうち2%程度は先天性と言われていて、

国内の推定患者数は、90人ほどだそうです。