超音波で認知症 治療
超音波を使って、認知症の進行を遅らせることを目指す医師主導の臨床試験を東北大の下川宏明教授らのチームが始めています。
患者の頭部に超音波を当てて、認知症の原因となるタンパク質を溜まりにくくするのが目的。
認知症を超音波で治療する治験は、初めてという。
この治験は、
軽度の「アルツハイマー型認知症」と、その前段階にあたる軽度認知障害の患者が対象となっています。
アルツハイマー型は認知症のなかでも最も多いタイプですが、根本的な治療法は見つかっていません。
東北大の研究チームは、
新世代の低侵襲治療とされる「低出力パルス波超音波(LIPUS)治療」に、アルツハイマー型認知症による認知機能低下を抑える働きがある可能性を見出しました。(マウスによる実験では、既に発見・発表されています)
今回、臨床現場で医師主導治験を行うことにより、ヒトにおける有効性・安全性についての検証を行うというわけです。
早ければ、2023年頃を目処に実用化を目指します。
人間の脳には血液に混じって外部から異物が侵入するのを防ぐ仕組みがあり、
投薬によるアルツハイマー病の治療を妨げてしまうのが問題でしたが、
超音波にはその制約がなく、治験で効果が認められれば革新的な治療法につながる。
しかも、この手法は簡易で安価なのも特徴です。
この研究チームは、
マウス使った実験で、軽度認知障害のマウスに超音波をあて、脳に障害の原因となるタンパク質(アミロイドβ)が減少していることを確認しています。
これは「超音波をあてると血管の拡張などを促す分子が分泌されるため」とみている。
研究チームは治験に向け、ヘッドホンのような器具を開発して、
それを患者の頭部にヘッドホンのような装置を付けて、こめかみ付近から超音波を左右交互に断続的に照射します。(超音波の出力は、ガン治療で使われる出力よりも弱くする)
まず東北大病院で、50~89歳の5人に対して低い出力で超音波をあてて、安全性を確認。
その後は40人規模に拡大して、全観察期間は18ヶ月で効果などを検証します。
この研究チームは、今回の治験で良好な結果が得られれば、さらに検証的治験を積み重ねた上で、将来的には薬事承認申請を目指すとしています。
東北大学の下川宏明教授(循環器内科学)は、
「根治薬がない中、超音波治療で病気の進行を抑え、発病を防ぐことが期待される。患者の身体への負担も非常に小さい。」
「少しでも有効性が認められれば、世界的な朗報だ。将来は重症な患者や、脳卒中による認知症患者にも対象を広げたい」と話しています。
アルツハイマー病とは、
「アミロイドβ」や「タウ」などの異常なタンパク質が脳内に沈着して、
それによって脳の側頭葉、頭頂葉、後頭葉における神経細胞が徐々に圧迫、破壊されていくという病気です。
厚生労働省によると、
アルツハイマー病を原因とする「アルツハイマー型認知症」の有症者数は、1996年頃は日本国内で13000人ほどでしたが、12年後の2008年には20万人以上となっています。(世界的に見ても、増え続けています。)
同じ認知症でも、
脳卒中によって引き起こされる「脳血管性認知症」は、医学的な診断精度の向上などによって有症者数の伸びは緩やかになっていますが、
アルツハイマー病は、確実な予防法や根治につながる治療法が見つかっていないので、急速な高齢化によってに右肩上がりに患者数が増え続けています。
アルツハイマー病は、進行性の病気で症状は時間の経過とともに悪化していきます。本格的な発症が始まると、
初期症状としては、
健忘症状や、
場所がわからなくなる見当識障害など、
中期では高度の知的障害、失語・失行・失認などが現れ、
重度まで進むと失禁や、拒食、反復運動なども顕著になる、
最終的には心拍、呼吸をつかさどる機能まで失われて、
ついには死に至ります。
心臓発作・肺炎などの直接的な死因が記録されていても、
実態としては、アルツハイマー病に起因する死亡者数は相当数に上るのではないかと言われています。