iPS血小板の輸血 臨床研究

京都大学チームのiPS細胞(人工多能性幹細)から血小板を作って、血液の難病再生不良性貧血の患者に輸血する臨床研究の計画の実施を厚生労働省が了承しました。

京都大学によると、iPS細胞を使った再生不良性貧血の臨床研究は世界初で、2019年の早い時期にも輸血を実施する予定です。

 

血液製剤献血によって作られていますが、

少子高齢化の影響などもあって、献血する人が年々減っていき問題となっていますが、これが実用化すれば、将来の血液製剤の供給にも役立つ可能性がある。

 

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「血小板」とは、

血液成分の一つで、骨髄内の巨核球という細胞から分離してできます。

直径2~3マイクロメートルほどで、

出血した際に、血小板同士が集まり固まって傷口をふさぐ役割をします。

現在、輸血用の血小板の供給は献血に依存していますが、

提供者の減少、医療ニーズの増加で、世界的にも需要に追い付かないとの懸念があります。

 

血小板の減少は、白血病やウイルス感染などによって起きますが、

再生不良性貧血の場合は、血小板だけでなく赤血球や白血球など、すべての血液成分が減ります。

 

再生不良性貧血は、止血作用のある血小板などが減少する病気で、

出血しやすくなるほか、感染症にかかりやすくなったり頭痛が起きたりします。

治療は献血による血小板の輸血などで行いますが、特殊な免疫型を持つ患者は拒絶反応が起きるので通常の輸血が難しい。

 

今回の臨床研究は、

再生不良性貧血」の中でも、血小板が減る「血小板減少症」の患者1人が対象となっていて、これは、他人の血小板を輸血しても拒絶反応で消えてしまい効果のでない特殊な例です。

 

患者自身の血液を採取してiPS細胞を作り、血小板に分化させて輸血することで拒絶反応を抑えた治療法の確立に繋げる。

 

今回の臨床研究では、

患者自身の細胞からiPS細胞を作り、血小板に育てて、3回に分けて患者に輸血する。(1回に最大1000億個輸血)

全てが正常な血小板と同じ機能を持つかは未知数です。

動物実験では異常は確認されていませんが、

安全性には慎重に確認する必要があります。

 

血小板には、細胞が増殖しない性質があるので、

ガン化のリスクは低いですが、品質の悪い細胞が紛れ込む可能性があので、

研究チームは、移植前に放射線をあてることで取り除く方針。

2カ月ごとに投与量を増やして、1年の経過観察で安全性や有効性を確認します。

なお、この研究チームはiPS細胞から血液成分の赤血球を作る研究も進めています。

 

 

iPS細胞の再生医療(臨床研究)は、

理化学研究所が、2014年に目の病気に対する世界初の臨床研究を実施、

その後も、

大阪大の心不全患者へ心筋シートを移植する臨床研究、

京都大のパーキンソン病患者へ神経の細胞を移植する臨床試験

大阪大学の角膜の病気、

慶応大の脊髄損傷や心臓病、

などが認められていますが、 

これらは局所的な細胞移植で、

今回の血小板の輸血は全身に行き渡ることから、より慎重な実施が求められます。

 

 

再生不良性貧血の国内患者数は5000人ほどで、輸血用血小板は献血で集められていますが、安定供給に懸念もあります。

このため研究チームは、京大で備蓄する健康な人のiPS細胞から血小板を作り患者に輸血する手法も研究していて、今回の臨床研究で得た知見を役立てる。

 

また、江藤教授は企業と連携し、多くの人が使える血小板製剤の開発に向けた臨床試験(治験)も計画しており、今回の研究で得られる情報が役立つと期待される

 

 

相次ぐ臨床研究を成功させるには、治療効果の確認とともに十分な安全性の検証が欠かせません。

iPS細胞の再生医療には、それがガン化してしまう懸念があり、移植する細胞の品質を確認する必要があります。

 

今回の研究が実用化して、普及するには高コストという課題もあります。

今回の費用は患者自身の細胞からiPS細胞を作るため、約5000万円と非常に高価となっています。

血液製剤を補うには、コストの低減は欠かせません。

 

全てを解決して実用化するには、まだまだ時間が掛かります。

この研究には期待の大きいですが、現時点では「献血」が非常に大事なことに変わりません。

 

 

研究チームのリーダー、江藤浩之教授(幹細胞生物学)のコメント

「(厚生労働省に)注意深い審議を経て、了承いただいた。安全に注意しながら着々と準備を進めていきたい」

献血のシステムを補う1つの選択肢として提案したい。」

 「臨床研究で成果が上がれば、幅広い治療に使える血小板の開発へ一歩近づく。」