大量に毛髪を増やす再生医療 技術開発
『髪の毛のない部分に移植すると、また毛が生えてくる』
理化学研究所と医療ベンチャー企業のオーガンテクノロジーズが、
男性の頭皮から採った髪の毛のもとになる細胞を培養し、大量に毛髪を増やす技術を開発。
この技術は、
毛が薄くなりにくい後頭部の頭皮の一部から、髪の毛を作る部分である「毛包」を作り、それを毛の薄くなった頭頂部に移植すると、
健康な髪が何度でも生えてくるという技術。
短期間で安定的に「毛包」を増やす技術は、世界初で、
脱毛症の治療薬や髪の毛の移植手術などの、 代替治療法となることが期待されます。
安全性を確かめるために、まずはマウスに移植する実験を行う方針で、
安全性が確認できれば、2019年にも男性型の脱毛症の患者を対象にした臨床研究を始め、早ければ2020年の実用化を目指します。
理化学研究所の辻孝チームリーダーの研究グループは、
2012年にマウスから採った細胞を培養して、
毛を作り出す「毛包」という器官を作った。
毛のないマウスの背中に移植すると、そこから毛が生えた。
今回は、
ヒトの頭の皮膚から取り出した3種類の幹細胞を組み合わせて、毛包と同じ能力を持つと考えられる組織を作製することに成功。
京セラと協力して、機械を使って安定した品質で大量に増やす技術も開発した。
1平方センチの頭皮から、髪の毛10000本分の毛包を約20日間で作ることができる。
移植後は毛髪が「再生」して、
生え替わりのサイクルも持続します。
辻孝 チームリーダーのコメント
「開発した方法は毛包の数を増やすのが特徴。わずかな毛包を使い、5000~10000ほど髪の毛を生やせる」
「今回の成果で研究面の段階を越えた。毛髪の再生医療は社会的関心が高い分野だ。日本発の産業化を目指したい」
と語っています。
杉村泰宏 社長のコメント
「当面は(健康保険適用外の)自由診療で2020年以降の実用化を目指したい」
国内のヘアケア市場は、4500億円とも言われていて、
このうち3割程度は、カツラや植毛の市場とみられています。
外用剤や内服薬では効果がなかなか目に見えないうえ、中断すると効果は消えてしまう。
このため、自毛や人工毛を植毛する外科的な施術や、カツラや自毛に人工毛を結着する増毛などにも一定の需要があります。
しかし、外科治療にあたる植毛は保険診療ではなく、自由診療で行われているのが現状です。
自由診療は、治療費が高額になりがちなうえに、再生医療とは呼べないような不適切な治療が行われている例も少なくありません。
この点を問題視した日本皮膚科学会は、
2017年に改定した「男性型および女性型脱毛症診療ガイドライン」の中で、
未承認の毛髪再生医療の社会的問題にも触れているほどです。
科学的なエビデンスに基づく治療法が、薄毛治療にも強く望まれるようになっています。
脱毛症は、
男性型や薬の副作用によるものなどに分類され、国内だけでも2500万人ほどの患者がいます。
薬の使用や後頭部の毛包を移し替える方法はありますが、
薬をやめると効果が続かず、移し替えも生やせる毛の本数には限界があるなど、課題もあります。
これまでも後頭部の頭皮を取ってきて、
頭頂部や前頭部に移植するような技術はありましたが、
今回の技術は、これまでのものとは抜本的に異なります。
それは、幹細胞を培養している点。
幹から枝葉が生えるように、
幹細胞からは、さまざまな細胞ができてくる。
単なる移植ではなく、最先端技術を駆使した再生医療と言えます。
また今回の研究では、
世界最高峰の科学研究機関である理化学研究所と、ベンチャー企業が協力して技術を開発・実用化している点も、実はとても有意義なことだと思います。
海外では普通のことかもしれませんが、
日本では、大学や研究所がベンチャー企業と組んで、大々的に製品・サービスを開発して、
実用化する例は、決して多いとは言えません。
他の分野のことも考えた場合、
大袈裟ではなく、このプロジェクトの成功は、日本のこれからにも大きく影響があるような気がします。