膵臓ガン発症のメカニズムを解明

従来知られていたものとは異なる膵臓(すいぞう)ガン発症のメカニズムをiPS細胞(人工多能性幹細胞)の作製技術を応用して、マウス実験で解明したことを、

京都大iPS細胞研究所や、東京大医科学研究所などのチームが、イギリスの科学誌「ネイチャー・コミュニケーションズ(電子版)」で発表しました。

 

ガンの主な原因として遺伝子異常が注目されてきましたが、新たな仕組みが分かったことで、予防に役立てたいとしています。

 

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膵臓ガンは、国内だけでも年間 30000人ほどが発症していて、ほとんどの場合が無症状で進行するため早期発見が難しい。

ガンと診断されてから、5年後の生存率は10%ほどしかありません。(ガン全体で見ると7割あることに比べて、膵臓ガンは治療成績が悪い)

 

膵臓の正常な細胞で、色々な遺伝子に傷(変異)ができて発症する、と考えられていますが、不明な点も多い。

 

iPS細胞は、血液や皮膚などの細胞に人工的に数種類の遺伝子を入れて作製しますが、

この際にiPS細胞に変化していく細胞では、もともと働いていた遺伝子の働きが弱くなる「脱分化」という現象が起きることが知られている。

東京大学医科学研究所の山田泰広教授らのグループは、膵臓ガンができる過程を調べるため、iPS細胞を作製する時に使う因子でマウスの細胞を「脱分化」させ、ガン発生に与える影響を検証しました。

 

その結果、脱分化に伴うエピジェネティックな変化が膵臓がんの発生に重要な役割を果たしていることが分かりました。

 

ガン化に関わる遺伝子を変異させただけのマウスでは、膵臓にがんは発生しませんでしたが、ガン遺伝子に変異があるマウスの膵臓に因子を働かせて脱分化させると、膵臓全体がガンやガン前段階の病変に変化し、

また脱分化が促進される膵炎を発生させても、膵臓の細胞が脱分化を起こさないよう操作したマウスでは、発がんを抑制できた。

 

東京大学医科学研究所 山田教授は、

「がんは遺伝子変異だけで起こる訳ではない。脱分化に注目することで新たな予防法につながる」と話しています。

 

iPS細胞を作製する過程では、最終的に因子が働かなくなるので、今回の研究はiPS細胞のガン化のリスクとは無関係としています。