膵臓がん 切除手術前の抗がん剤で生存率向上
膵臓(すいぞう)ガンの治療で、
ガン部位の切除手術が可能な場合に、手術前に抗がん剤など化学療法を施した方が手術を先行させたよりも生存率が高まることを、
東北大大学院医学系研究科の海野倫明教授(消化器外科学分野)の研究グループが解明。
従来の治療法よりも、リンパ節への転移や肝臓に再発するケースが少なく、
「薬で目に見えないガンをやっつけたのではないか」と考えられています。
今回の研究成果は論文として発表され、日本膵臓学会の膵癌診療ガイドラインのウェブ版にも掲載される予定。
膵臓ガンは、あらゆるガンの中で最も治療成績が不良な「最凶のガン」と言われています。
ガンをすべて取り切る手術(治癒切除)を行うことが、長期生存をもたらす唯一の方法ですが、その治療成績はいまだ満足すべきものではなく、成績向上が急務と考えられています。
研究チームは、
2013年から全国57の病院で、手術可能と判断された79歳以下の成人患者 約360人を対象に研究を実施。
手術後に抗がん剤の「S―1」を投与する標準治療の患者と、
手術前にも「塩酸ゲムシタビン」と「S―1」を組み合わせて投与する患者に分けて比較した。
その結果、標準治療に比べて手術前にも投与した患者は、
平均生存期間が26.7ヵ月から36.7ヵ月になり、10ヶ月長くなった(1.4倍に延びた)と研究結果が出ています。
2年生存率は、52.5%から63.7%へとなっています。
さらに手術前にも投与した患者では、周囲のリンパ節への転移などが減ったとしています。
膵臓ガンは、日本国内だけでも年間に約40000人が発症。
早期発見が難しく、他のガンと比べて極端に生存率が低いとされています。
国立がん研究センターによると、
3年後の生存率は、
乳ガン 95.2%、大腸ガン 78.1%、胃ガン74.3%に対して、
膵臓ガンは、15.1%となっています。
手術で切除できる患者(他の臓器に転移などがないなど)は、全体の2割ほどで、残りの8割は、最も進行したステージ4が多く、切除できない状態です。
そのため、膵臓ガン治療は早期発見が鍵を握るとされてます。
ですが、膵臓ガンは、ガンのなかで最も発見や治療が難しい。
膵臓は、胃の裏側の体の奥にあるため、超音波が届きにくく、内視鏡の挿入もできません。
また、自覚症状として、腹痛や背中の痛み、黄疸、体重減少、食欲低下などがありますが、早期には自覚症状が現れないため、早期に発見されることが非常に少ないのです。
そのため、多くは診断されたときには既にかなり進行しています。
血縁者に膵臓ガンの人がいれば、自分も膵臓ガンになりやすいことがわかっています。特に、血縁者2人以上が膵臓ガンである場合を家族性といい、発症リスクは約7倍です。
糖尿病が急に悪化したり発症したりした場合には、膵臓ガンの可能性を考えられます。
慢性膵炎の人は、膵臓ガンを発症するリスクが約12倍です。
肥満、喫煙、大量飲酒も、膵臓ガンの危険因子と言われています。
現在まで切除可能なガンはなるべく早期に手術するという考えが一般的でしたが、
この研究結果を受けて、日本膵臓学会の診療ガイドラインで推奨される見通しになったという。
東北大病院総合外科長 海野倫明 教授のコメント
「抗がん剤治療を先に行うことで、がんが小さくなって手術しやすくなる効果も考えられる。今後は、手術前の抗がん剤投与が標準治療になるだろう」
「がんの進行なども考慮し、これまでは手術先行が標準治療とされてきた。しかし、手術前の抗がん剤投与でリンパ節の微小転移や肝臓がんの再発などが減り、生存率が高められることが明らかになった」