悪性脳腫瘍に「放射性治療薬」治験

国立がん研究センターと放射線医学総合研究所は、

悪性脳腫瘍への放射性治療薬を共同で開発し、臨床試験(治験)を始めることを発表。

これは、放射線を出す薬剤(放射性医療品)をガンの近くに集めて、内部から局所的に攻撃してガン細胞の増殖を抑制する仕組み。

 

放射性治療薬は、

ガン医療における新しい治療薬として期待されていて、薬剤開発が急速に進んでいます。

甲状腺がん治療薬などで数種類が現在までに10000人ほどの患者に使われていて保険適用もされていますが、全て海外で開発されているもので、国産での放射性治療薬の治験は国内初となります。

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悪性脳腫瘍は、現在の治療法(外科手術・放射線治療で化学療法など)では十分な効果が得られるものがなく、再発した場合の治療法は確立できていません。

その原因として、悪性腫瘍は、活発に増殖するので血管新生が追い付かずに、脳腫瘍の内部は酸素濃度が低くなり、さらに脳には 入り込む物質を選り分ける血液脳関門があるので、抗がん剤が患部まで届かずに効きづらい。(放射線では正常な細胞も傷つけてしまう)

これによって、十分な治療効果が得られません。

 

治験では、藤林康久上席研究員(量研機構・放射線医学総合研究所)が開発した薬剤を使います。

この薬は、

放射性銅が低酸素の腫瘍に集まりやすい性質を利用して、ベータ線や、特殊な電子(オージェ電子)を放出、これで内部からガン細胞を攻撃し、高い殺傷効果が期待できます。

マウス実験では、低酸素状態にある悪性脳腫瘍の増殖を抑制し、生存率も改善したことが確認されています。

 

治験は、2021年3月までに12~30人を予定。

悪性度の高い膠芽腫(こうがしゅ)や、転移性脳腫瘍などで再発した患者など、抗がん剤や放射線治療の効果が薄れた患者が対象で、

薬剤を、注射で1週間ごとに4回投与する。

安全性や有効性が確認されれば、5~10年後を目処に薬の承認を目指すとしています。

研究チームは、肺ガンや子宮頸ガンなどにも適用を拡大できる可能性もあるとしています。

 

他の部位からのガンが転移したケースも含めると、日本国内だけでも、年間10万人以上の悪性脳腫瘍患者がいると言われていて、

高齢化が進めば、さらに患者は増えると予想されており、

この放射性治療薬は、国産のものがなく輸入に頼っているのが現状なので、経済的な負担の増加や、将来的な供給不安などのリスクが懸念されています。

 

国立がん研究センター中央病院放射線診断科の栗原宏明医長は、

「薬が日本で製造できれば日本の産業になる」と、この臨床試験には期待を寄せています。