「自己免疫性膵炎」発症の仕組み解明

指定難病「自己免疫性膵(すい)炎」が発症する仕組みを解明。

京都大学 名誉教授 千葉勉 関西電力病院長(消化器内科)や、神戸大学特別研究員 塩川雅広(消化器内科学)らの研究チームが発表しました。

この研究チームは、

身体に備わる免疫機構(抗体)が、膵臓の細胞を支える特定のタンパク質を誤って攻撃することで、炎症などが起きていることを突き止めました。

これによって、新しい診断法や副作用の少ない治療法の開発が期待されます。

この研究成果は、アメリカの科学誌「サイエンス・トランスレーショナル・メディシン(電子版)」に掲載されています。

 

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自己免疫性膵炎は、

患者数は日本国内だけで 5000~10000人ほどと言われていて、難病の「IgG4関連疾患」の一つです。

患者本人の免疫システムの異常で、膵臓の炎症や黄疸があらわれ、肝硬変や糖尿病を引き起こします。

 この病気は、膵臓がんと撮影画像がよく似ていて診断が難しい例もあり、誤診されて手術されるケースもあります。

ステロイド剤で症状を抑えることは出来ますが、根治は難しいとされています。

2014年に難病指定され、発症の仕組みは不明でした。

 

自分の免疫(自己抗体)が誤って自身の膵臓を攻撃してしまうことが原因と考えられてきましたが、膵臓の中のどの物質を攻撃しているかは、多くの研究者が長年探していたにもかかわらず不明でした。

研究チームは、この原因物質(自己抗原)を探索するために、自己免疫性膵炎患者の血液から抗体を抽出して、マウスに投与。

その結果、自己抗体「IgG1」が自身の膵臓に存在する「ラミニン511」という細胞外マトリックス(細胞外に存在して身体の構造を支える物質)のタンパク質を誤って攻撃していることを発見しました。

これにより、「ラミニン511」が自己免疫性膵炎の病因であることが確認。

このタンパク質を認識する抗体を人工的に作らせたマウスも膵炎を発症したことも確認しています。

患者 51人中 26人が「ラミニン511」の抗体を持っており、患者自身の抗体がこのタンパク質を攻撃することが、発症の原因の一つだと結論付けました。

研究チームは、タンパク質を攻撃する抗体が血液中にあるかどうかを調べることで、確実な診断が可能になると考えています。

 

千葉勉 名誉教授のコメント

「この抗体の有無が新しい診断基準になり得る。現在はステロイド治療しかないが、副作用の少ない治療法の開発にもつながる」

 

塩川雅広 神戸大特別研究員のコメント

「新たな治療法の開発のほか、抗体の量を調べることで、確定診断や治療効果の判定につなげたい」