『光免疫療法』 近赤外線でガン治療

光を当てて ガン細胞を攻撃する新しい免疫療法の臨床試験(治験)が始まる

国立がん研究センター東病院が発表しました。

対象は、頭頸部(とうけいぶ)ガンの患者で、安全性を確認するために少人数で実施されます。

日本人研究者によって開発者され、アメリカのベンチャー企業「楽天アスピリアン」が2017年12月に、医薬品医療機器総合機構に治験届を提出。

数年以内の承認を目指しています。

 

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「光免疫療法」と呼ばれるこの治療法は、米国立衛生研究所(NIH)の小林久隆 主任研究員が開発しました。

光免疫療法は、

がん細胞だけに結合する抗体に、特定の波長の光に反応する化学物質をつなげた薬剤を患者に投与した後、近赤外線を当ててがんを破壊する治療法。

正常な細胞には影響せず、副作用が少ないと期待されています。

 

 

小林久隆 主任研究員のコメント

「化学反応によって、従来の抗がん剤とは全く異なる仕組みで狙った細胞だけを死なせることが分かった」

「体に害になる薬を使わないことが基本です。同様に、放射線も使いません。害になるものは、人に使用する際に必ず限度があるからです。そこで目に見える近赤外線を使い、光を当てた部分だけを選択的に治療できる方法を考案しました」

「日本での治験を予想以上に早く始めることになった。副作用が少なく高い有効性を期待できる」

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小林久隆 主任研究員らは、テレビのリモコンなどにも使われている「近赤外線」を当てると、化学反応が起きる物質を発見。

 

治療は、ガン細胞に集まる「抗体」と呼ばれるタンパク質にこの物質を付けて、体内に注入。ガン細胞に集まったところで近赤外線を照射する。

光が当たった物質が化学反応を起こし、がん細胞の膜を破って攻撃するという仕組みです。

さらに、破壊されたガン細胞の残骸に含まれる「ガンの特異的抗原」に対して免疫反応がしっかりと引き起こされるため、光を当てた部位から離れた場所に転移したガンにも効果が期待できる。

 

近赤外線は無害で安全性が高く、体の表面から離れた深い場所にあるガンにも、注射針に直径 1~2mmの光ファイバーを通して光を当てられる。

ガン細胞が破壊されて消滅する時間は短く、わずか1~2分間です。

光を当てる際は、光ファイバーを患部に注入し、近赤外線を照射することになるため、約9割の固形ガン(食道・胃・大腸・肝臓・すい臓・腎臓・肺・子宮など)に適用できるそう。

残りの1割の近赤外線を当てられない患部(たとえば、白血病や骨髄腫のような血液系ガンや、骨のように光が通りにくい場所)にできたガンには、この光免疫療法は難しいそう。

 

 

アメリカのオバマ前大統領が、2012年の一般教書演説で、

「がん細胞だけを殺す新しい治療法が実現しそうだ」

と世界に誇ったように、

これまではアメリカで研究が進められてきました。

アメリカでは2015年に治験が始まっていて、手術や放射線療法などで治らなかった首や舌などのガン患者8人のうち、7人が少なくとも一時的にがんが縮小。

このうち3人はがんが消え、治療後1年以上たっても生存されています。

 

治験を担当する同病院の土井俊彦 副院長は、

「食道や大腸など様々ながんに応用できる可能性があり、できるだけ早く治療法として確立したい」と話している。

 

がん治療に詳しい放射線医学総合研究所病院の岡田直美・腹部腫瘍臨床研究チーム医長のコメント

「どんな細胞でも、膜に穴を開ければ殺せるという発想は画期的で、効果や安全性も期待できる治療法だ」