がん細胞だけ死滅させる新しい光線力学治療
特殊な光を当ててガン細胞を死滅させる
「光線力学療法」で、
ガンの増殖や転移を促す分子だけを破壊する新たな方法を、甲南大の三好大輔教授(分子設計化学)と川内敬子准教授(腫瘍分子生物学)の研究チームが開発。
ガン腫瘍の表面だけでなく、中心部の治癒効果も期待できるそうです。
これが実用化されれば、これまで治療が難しかったガンにも効く可能性があります。
イギリスの科学誌「ネイチャーコミュニケーションズ」電子版に掲載されました。
光線力学療法とは、
光を当ててできる活性酵素によってガン細胞を死滅させます。
主に早期ガンで使われていて、身体への負担が少ないという利点がある。
一方、活性酸素に耐性があったり、腫瘍の中心部で血管が十分に発達していないため、
低酸素状態にあったりするガン細胞では効果が低いことが課題とされている。
研究チームは、
ガン細胞の増殖や転移を促進するタンパク質「RAS」の一種で、皮膚ガンや乳ガンなどの原因となる「NRAS」に着目。
NRASの構造は球状で、他の物質が結合できる部位がほとんどないため、NRASを標的にした医薬品の開発は難航。
NRASの遺伝情報を伝える「伝達RNA」と、
伝達RNAの四重らせん構造に結び付く性質を持つ化合物「ZnAPC」を試験管内で混ぜて光線を照射すると、
伝達RNAが切断され機能しなくなった。
NRASmRNAを分解するほか、活性酸素を発生させてガン細胞を破壊してくれます。
さらに、
乳ガン患者由来のガン細胞に対して、細胞組織を通り抜けやすい近赤外線を照射すると、ZnAPCを加えた細胞のみNRASが大幅に減少して、ガン細胞の約95%が死滅した。
腫瘍中心部を想定した低酸素状態などでも同様の結果が得られています。
研究チームは、
こうした研究成果から、伝達RNAを切断してNRASの生成を妨げる新たな療法が、ガン治療に有効と結論づけました。
この仕組みを応用すれば、新たな医薬品開発につながる可能性もあると話しています。
三好教授は、
「まずはマウスでデータを取りながら精度を高めていく。数年後には臨床試験や実際の治療にも使えるようになれば」と話しています。