パーキンソン病にiPS細胞を移植
京都大学の高橋淳教授らのチームが、
iPS細胞(人工多能性幹細胞)から育てた神経細胞をパーキンソン病患者の脳に移植したと発表。
医師主導による臨床試験(治験)の1例目です。(50代の男性患者)
iPS細胞を実際に移植するは、目の難病と心臓病に続いて国内では3例目となります。パーキンソン病患者にiPS細胞から作った神経細胞を移植した手術は世界初であり、海外からも注目されています。
高橋淳教授(京都大学)は記者会見で、
「手術後の経過は良好。
外科医にとって結果が全て。
今までに積み上げてきた研究の審判が下るので厳粛な気持ち。」と語っています。
移植から1年間は拒絶反応を抑制するために、免疫抑制剤も使用するとのことです。
今回の手術では、
患者の細胞から移植に使用するiPS細胞を作るのではなく、
京大の細胞研究所が前もって第三者の細胞より作ったものを使って患者の頭蓋骨に直径12ミリの穴を開け、特殊な注射針で移植する。
脳の左側に約240万個の細胞を移植して、
問題が起きなければ、半年後に右側にも移植する予定で、2年かけて経過を観察して、安全性と治療効果を確かめます。
今後は、計7人の患者に移植する計画で、
2022年までに安全性や効果などを確認し、
その治験の結果をもとに、大日本住友製薬が国に製剤化を承認申請する予定となっています。
厚生労働省の調査によると、
パーキンソン病は、現在国内だけでも約16万人もいるとされていて、
近年における高齢化に伴って、患者数は増え続けています。(60歳以上の100人に1人が、このパーキンソン病に罹患していると言われています。)
パーキンソン病とは、
ドーパミンという物質を作る脳内の神経細胞が減少してしまい、発症します。
手足などが震える神経の病気で、歩きにくくなるなどの運動障害や認知症、自律神経障害といったさまざまな症状があります。
普通は身体を動かそうとしたときに、
まず大脳皮質から全身の筋肉へと運動するよう伝達する指令が伝わりますが、
自分が意図した通りに運動の調節を指令するのが、神経伝達物質ドーパミンなのです。
ドーパミンは、脳の奥の「黒質」というところにあるドーパミン神経によって作られています。
このドーパミンが減少することで「手足の震え」や「体が動きづらくなる」といった症状が現れます。
この病気の特徴は、
若年者層に比べて、高齢者層に発症する可能性が高いことで知られており、発症者数は60代を境に、爆発的に増加します。
今のところ、このiPS細胞を使った細胞移植をしてもドーパミンの減少を抑えることはできないと言われています。
とはいえ、治療の選択肢が広がることで、患者の生活の質(QOL)が上がることは期待できます。
現在では、不足したドーパミンを補う薬を飲んだり、脳に電極を埋めて電気刺激で症状を抑えたりする治療もありますが、
効果が持続しないことなどが課題とされていて、根治治療ではありません。
海外では、中絶した胎児の神経細胞を患者の脳に移植する治験が進んでいて、
症状の緩和などに効果が出ているそうです。
ただ、移植に使う細胞を大量に調達するのは、費用の面や倫理的にも難しく、
血液などから作ることが出来て、ほぼ無限に増えるiPS細胞ならこうした問題も起きにくい。
今回の治験がうまくいけば、再生医療の普及に弾みがつくと期待されます。
iPS細胞研究に詳しい、青井貴之 神戸大教授(幹細胞生物学)のコメント
「パーキンソン病は患者数が多いこともあり、治験の開始は大きなステップ。
ここまで、サルへの移植を行い、かなり慎重な観察を重ねた上で患者への移植にたどり着いた。
ただ、明日にでも実用化されるように思われるかもしれないが、まだ先の話だと考えてほしい。
予期しない不具合が起きる可能性は否定できないし、本当に人間に試して効果があるのかも焦点。
治験はそれを調べるためにこそある。」