腎臓病の悪化原因「線維化」が腎臓を修復
腎臓病を悪化させる原因の「線維化」が、逆に病気の初期には傷ついた腎臓を修復している可能性があるとする研究成果を、京都大学医学研究科の柳田素子教授(腎臓内科学)らの研究チームが発表しました。
これまで「線維化」は、腎臓病を悪化させると考えられてきましたが、修復に関係する可能性があることが分かり、これまで開発が試みられてきた治療法を再検討する上でも重要な知見となります。
成果は、国際科学誌「キドニー・インターナショナル」に掲載されています。
慢性腎臓病は10人に1人が罹患する国民病で、
腎臓の機能が落ちると人工透析が必要になって、腎臓の移植を受けることもあります。
慢性腎臓病が進行すると腎臓の「線維化」が認められるため、従来は「線維化」が腎機能を低下させると考えられてきました。
多くの場合で、尿が通る腎臓内の「尿細管」に障害が起き、その周辺にある「線維芽細胞」が線維化を引き起こします。
これまで、この線維化を治療する薬の開発が試みられてきましたが、実用化はされていません。
柳田素子教授らの研究チームは、
線維化を起こす「線維芽細胞」の働きを人工的に調節できるマウスを使い、
この細胞と尿細管にどんな関係があるかを調べ、健康な尿細管で作られる「レチノイン酸」と呼ばれる物質に、尿細管の細胞増殖を促して修復する働きがあることを発見しました。
また病気の腎臓では尿細管の代わりに、線維芽細胞が線維化の過程でレチノイン酸を作っていることが分かった。
その結果、尿細管が傷ついて自力で修復する機能が落ちると、線維芽細胞の働きが活発になり、線維化を起こす一方で、尿細管の増殖を促して修復することが分かった。
さらに腎臓病の初期の段階では、線維化の悪影響はあまり大きくない可能性があるとしています。
つまり、線維化は腎臓病を悪化させるだけでなく、腎臓を修復する可能性を示唆しています。
現在、線維化が腎臓病の悪化因子のように考えられ「線維化治療薬」が開発されていますが、この研究は「線維化治療薬」の問題点を示唆するとともに、尿細管を修復する重要性を裏付けています。
京都大学医学研究科の柳田素子教授(腎臓内科学)のコメント
「尿細管やこの分子を標的にした薬ができれば、新しい治療法になるかもしれない」
「重度な線維化では治療が必要な場合もあるだろうが、線維化が全て悪いわけではないことが示唆された」