キメラ技術 (ヒトと羊のハイブリッド)
キメラ技術(人間と動物のハイブリッド)とは、
移植手術用の臓器を無限に作り出したり、1型糖尿病の治療法となったりすることが期待されていて、
人間に移植できる臓器を動物の体内で作ることが出来るという技術です。
アメリカでは、臓器移植待ちリストが10分に1人の割合で増加していて、毎日そのうち22人が亡くなっているのが現状です。
アメリカだけを見ても、心臓移植を必要とする人は10万人以上いますが、
実際に移植を受けられるのは、1年にわずか2000人ほどです。
こうした現状を受けて、研究者らは人為的に臓器を供給できないかと、様々な試みを行っています。
3Dプリントで臓器を作ろうとする人もいれば、機械的な臓器の研究をする人もいます。
「キメラ技術」もそうした試みの一つで、
ブタやヒツジの体内で人間の臓器を育てる方法を模索しています。
この「キメラ技術」は、臓器移植の移植待ちを減らす有力な方法として考えられていました。
これは、「人間と動物のハイブリッド」とも呼ばれていて、
2018年2月にはナショナルジオグラフィックが、
「羊と人間のハイブリッドが研究室で作られていること。それに関する事実」という内容で、人間と羊のハイブリッドに関する記事を公開して大きな話題を呼びました。
この「人間と動物のハイブリッド」について研究しているスタンフォード大学のチームが、羊と人間の両方の細胞を有する胚を、代理母の中で3週間にわたって育てることに成功。
これは人間のために移植できる臓器を育てるための試みであり、1型糖尿病の治療にとっても大きな一歩となる成果です。
次のステップとして、
「人間の幹細胞を遺伝子改変された羊の胚に移植し、膵臓を成長させることができないようにすること」です。
これに成功すれば、羊の体内では「人間の膵臓」が成長するものと考えられています。
アメリカのスタンフォード大学で、
人間と羊のハイブリッドに関する研究に携わっている中内啓光氏は、
「我々は既にクマネズミの体内でハツカネズミの臓器を作成し、糖尿病のハツカネズミに移植して免疫抑制剤を一切使わずにほぼ完全に治癒させることに成功しています。人間と羊のハイブリッドについてはこれよりも難しいことは明らかなので、より長いスパンで見て研究を進めたいと考えています。今後は臓器欠損胚を使うことを予定しています。5年から10年かかることになるかも知れませんが、最終的には人間と羊のハイブリッドができるようになるでしょう」
と語っていて、
動物の体内で飼育された臓器は、
これから5~10年で人間に移植できるようになるという考えであることを明かしています。
特にイギリスでは現在、移植用の臓器不足の問題に直面しています。
これは医学の進歩によって、臓器提供機関が足りなくなっているからです。
2017年、アメリカのソーク研究所の研究者たちが人間と豚のハイブリッドを作りましたが、まだ臓器を育てることには成功していません。
豚や羊の臓器は人間とほぼ同じ大きさであることから、これらを直接移植用に使うことを多くの研究者たちは望んでいます。
これまでこういったアプローチはたびたび失敗してきましたが、
新しい方法では人間の幹細胞を直接使用するので、人体で拒絶反応が起こるといった問題を除外できます。
また、羊は人間と同じサイズの心臓や肺を有しているため、人間と羊のハイブリッドは、豚とのハイブリッドよりも効率的です。
前述の中内氏と共同で研究を行っている、カリフォルニア大学(アメリカ)パブロ・ロス氏は、
「羊の器官サイズは人間のものと似ており、羊のいくつかの臓器は人間のものと生理学的に類似しており、心臓の形状もいくつか類似点を持っているため、羊で多くの心血管研究が行われています」
と話しています。