エイズ治療の大変革
〔2種類の抗体を組み合わせて投与することで、患者体内のHIV(ヒト免疫不全ウイルス)を1回の治療で数ヶ月間も抑える方法を発見〕
この研究結果を発表したアメリカの研究チームは、
『HIV感染症エイズ(AIDS、後天性免疫不全症候群)の治療法の大変革』をもたらす可能性のある成果だと言っています。
HIVを制御するための、
抗レトロウイルス薬による治療を受けている患者数が過去最多となっていますが、
患者は健康を維持するためには、厳格な服薬計画を守る必要があり、通常は毎日の服薬を一生続けなければなりません。
アメリカのロックフェラー大学などの研究チームは、
HIVの影響を弱めることが知られているタンパク質の2種の組み合わせによって、
患者体内のHIVを1回の治療で、最大30週間にわたり抑えることに成功し、
毎日の服薬に代わる治療法が登場する可能性があるとの希望がもたらされるとしています。
アメリカ国立アレルギー感染症研究所のアンソニー・フォーシ所長は、
「安全で信頼できる抗体ベースの治療計画により、HIVを抱えて生活する人々に新たな可能性が開けると考えられる」
「今回の結果は、その目標に向けた重要な初めの一歩となる」と述べています。
2018年9月26日、
イギリス科学誌ネイチャーとイギリス医学誌ネイチャー・メディスン、
それぞれ掲載された2件の研究論文で、研究チームは抗レトロウイルス薬でHIVを治療していたボランティア被験者15人を採用。
被験者には投薬治療を中断させた後に、2種類の抗体を点滴で投与。
抗体は薬剤なしでHIVの抑制が可能な体質の人々の体内に、自然に存在するものです。
HIVの外殻にあるタンパク質を標的とするこれらの抗体は、感染に対抗するために、
患者自身の免疫系を利用します。
2種類の抗体タンパク質を同時投与したのは、HIVの耐性発現を防ぐためで、抗体を基盤とする過去の研究は、この耐性発現によって妨げられてきました。
被験者にはさらに、3週間後と6週間後に点滴を投与しました。
その結果、被験者はHIV濃度が「安全な」レベルに抑えられた状態を平均15週間維持したことが分かりました。
その内の2人の被験者は、その期間が30週にも及んでいます。
ロックフェラー大学のミシェル・ヌセンツワイグ教授(分子免疫学)は、
「過去の研究では作用がはるかに弱い抗体を用いてこれを試みたが、うまくいかなかった」
「研究の目的は、今よりさらに長持ちするように抗体を改良することだ。そうすれば、患者は毎日服薬する代わりに、1年に数回の治療を受ければ済む」と、話しています。
抗レトロウイルス療法(ART)では、
薬を決められた通りに服用し続けなければHIVを抑制できなくなり、他の人々をHIVに感染させるリスクが増大します。
さらに、多くのARTには不快な副作用が伴います。
今回の研究には参加していないオレゴン健康科学大学のナンシー・ヘイグウッド氏は、
AFP通信の取材に対して、
最新の治療法がもたらす最大の潜在的恩恵は、
ARTから離れる『休薬日』をHIV感染患者に与えることだと思われると語っています。
「数ヶ月の間、薬から『離れる』ことを可能にするこれまでにない安全な治療法として抗体を利用できる可能性がある」と、ヘイグウッド氏は述べています。
今回の研究結果について、
非常に将来的には期待できるが、実用化して抗体が有効な状態を保つ時間を長くするためには、さらに試験を重ねる必要がある、との指摘も研究チームはしています。
国連のデートによると、この10年でエイズ関連の死者数は半減していますが、それでもまだ 2017年には180万人がHIVに感染、2017年のHIVによる死者数は94万人となっています。